初めて、悟くんと出会った時。七歳の悟くんはまだ、その瞳の中で世界のまばゆさ全てを引き裂いているような六眼を隠していなかった。人間でも呪霊でも、分別のつくような存在なら何であれ、その瞳には本能的な畏怖を抱くそうだ。だけど、私は悟くんの方は見ずに、思わず別のものに気を取られてしまっていた。
 悟くんの手を握ってここへと引き連れてきた、おそらく五条家の女性。悟くんの手をぎゅっと握る白くて柔らかそうな手に、私の胸はつままれたみたいに小さく縮んでしまった。悟くんもぎゅうとその手に白い指を絡ませているのを見ると、その人はきっと、悟くんに理屈じゃない安心をくれるのだろう。
 重なり合う二つの手。同じく七つだった私は、失礼にもいいなぁと唇を尖らせた。その人が悟くんのお母さんじゃなくても、女の人の優しくてあたたかそうな物腰がそっと横にあるというだけで、私にとっては羨ましくて仕方がない。
 私にはお母さんがいない。おばあちゃんもいない。叔母も、従姉妹もいない。だって女の人はみんな死んでしまうから。お家の呪いで、はたちを過ぎればそのうちに死んでしまうから。もちろん、私も。
 私の手を握ってくれるのはお父様。その後ろで控えてくれる分家の人も男性だ。必ず女の人が若いうちに死んでしまうの家を怖がって、近寄るのは男の人ばかり。
 だから私はあたたかな母に飢えていた。
 初めて悟くんと出会った日。あなたの握る掌が羨ましくて、私は悟くんから目を逸らした。だからあなたが顔を歪ませてることにも気づけず、数年後、それをいつまでも後悔し続けるとも知らずに。