※百合夢です。女の子同士のキス有り。
トウコがわたしを欲しがってくるのは唐突だ。唐突で脈絡が無いので、何を見て、何を聞いて、何に想像をかきたてられてそんな飢えた顔をするのか理由は読み取れない。けれど、トウコってばまたキスをしたくなったんだなぁ、とはいつもすぐに気づいてしまう。
はっきりとした顔立ちのトウコ。特にちょっと強気なその目が野生じみて輝くとき。わたしを見てくるとき。四六時中トウコを観察してるわけでもないのに、トウコが熱を持て余す瞬間は目ざとく見つけてしまう。
欲しくなっている目を見るのは好き。情欲の中でトウコがもがいているみたいで嬉しくなるのだ。前は女の子に恋してしまった自分にものすごく驚いていたはずなのに、今ではこんな支配欲みたいなものが私の中に生まれている。
嬉しいけど恥ずかしい。二つの感情に困りながらもわたしはその欲望が流れ出すのを手伝う。
「トウコ」
大きな瞳が泳ぎながらわたしを見つけた。
「ふたりきりになれるとこに、行こっか」
「……うん」
わたし達は指先を友達であるかのように握り合ってそっと連れ立って、人の視線から隠れる。そしてキスをする。隠れるのは、女の子同士という後ろめたさからじゃなくて単純に楽しいからだ。ちょっと暗い場所を探して、こんな場所でもわたし達はふたりでいられるねってくすくす笑い合うと、恋をしている実感がどこからか、かけっこしてきて楽しくなる。
トウコも多分同じ気持ちになっているはずだ。隠れるのは楽しい気持ちは同じ。キスできる場所、瞬間、世界の隙間を探してるのも同じなんじゃないかと思う。飢えてあえいでいるときのトウコは拠りどころ探しているようにも見える。
「ここで良いよね」
「明るすぎない?」
「ちょっとだけなら大丈夫だよ」
甘く痺れる午後。今日の隠れ家は垣根の裏、細かい葉が瑞々しく茂る低木の影に決まった。よく見ると根元の葉はスカスカなので、きっと近くを通った人からはここに女の子がふたり隠れているのはすぐ分かってしまうだろう。でもきっと、キスをしてるとまでは思わないだろう。そう見越してわたしとトウコは見つめ合った。
トウコは美人という形容が似合う。見つめていると胸が苦しくなるくらいで、わたしは露出された白い首筋にすがる。その指先でわたしはトウコを楽しむ。ポニーテールからあえて残された顔周りの毛がサラサラと爪にひっかかる。あごの薄く破れそうな肌に吸い込まれそうになる。トウコを知ってしまった今では不思議だ。こんなにきれいですべすべで、なのに柔らかいものをどうして今まで好きにならずにいられたんだろう。いったい、どうして。
しっとりとした唇のしわ。トウコのために研ぎ澄まされたわたしの感覚でならその細かい刻みも感じ取れる。
入ってくる舌。いつの間にか舌まで合わせるのがわたし達の間では当然になっていた。わたしは小振りなそれを一生懸命吸う。柔らかくてマシュマロを思い出す。マシュマロは千切れる瞬間が面白い。だからたまにトウコの舌も噛み千切ってみたくなるけれどやっぱり大好きなトウコには気持ちよくなって欲しいので、わたしはちゅうちゅう吸うことに専念する。
柔らかく、空気で少し冷えた鼻先がほほに埋まってくる。ああ、トウコってば我慢できないんだ、と思うと嬉しさが増す。
「あれ? トウコとは?」
届いたのはチェレンの声だった。幼馴染の声にわたし達は近い距離のまま目を見開いて固まってしまう。さらに追い討ちをかけるようにベルの声が重なった。
「どこ行ったんだろうねえ。いつもふたりでいなくなるよねえ」
なんで緊張に緊張を重ねようと思ったのか、うまく説明できない。けれど、チェレンとベルの声が近づいてきているというのにわたし達はゆっくりと行為を再開した。音を立てないようにと意識するとわたし達の身体はぴったりと寄り添いあった。もうここでストップ、とは言えなくなってきた。お互いにやめ時を失って後に引けなくなって、やけくそに興奮が加速する。
「ふたりで美味しいものでも食べてるのかなあ」
「なんでそうなるんだよ!」
わたしは食べてる。トウコの湿った舌を。素敵な味がするわけじゃないのだけど、夢中で食べている。
キスがしたいだなんていう衝動に振り回されてるトウコの恋模様は荒々しく見える。反対にわたしの恋は至って穏やかだ。トウコは深紅の情熱を持っているけれど、わたしの恋の色はモモンの実に散らされたピンク色に近い。
でも求め合う気持ちは同じだ。唇が重なり合うとき、感情の色も重なってわたし達はもっと彩りを重ねあって、全ては興奮した唇の色に染まるのだ。