真っ赤な耳、ところどころで掠れるうわずった早口。視線は右に左に泳いでいてなんだかぐるぐる目を回しているように見える。
一生懸命なヒョウタくんが語るのは、大好きな化石のことだ。
「信じられないよね、この石だって何千年、いや何億年の時を越えてきているんだよ。ただの石に見えるかもしれないけど、よく見ればいろんな情報が凝縮されてるんだよ。当時の生き物、ポケモンの情報も入ってる。すごいよね……! それと、地層が変わると岩の表情もガラリと変わるのもおもしろいよ!」
いつものヒョウタなら途中で我に返る。ごめん、こんな話題ちゃんにはつまらないよね、ってすぐ言い出す。わたしはそんなことないよっていつも言う。ヒョウタくんが好きなものの話は聞きたいよって。
だけど、今日のヒョウタくんはノンストップだ。ぜんぜん我に返らない。一生懸命な姿はどこか必死さをおびていて、もう暴走気味と言っても良い。
「化石を傷つけずに掘り出すのは本当に難しいだけど、その分成功した時の感動はひとしおなんだ! その、ちゃんは手先が器用だからきっと行けば楽しい、と思う!」
楽しそうだな。
ヒョウタくんがわたしに聞かせようとしてくれているのに、わたしの気持ちはヒョウタくんの前から離れていく。ふわふわと、雲が空に浮かび上がるように。
化石と化石を愛でるときのヒョウタくんは、わたしとはちょっと遠い世界の住人だ。
しかもそれは俗に言う二人の世界。いや、一人とひとつの世界でいろんな意味で嫉妬してしまう。
ぼんやりと生きているわたしにとっては好きで好きで仕方が無いものを持ってるヒョウタくんがうらやましくって、わたしが紛れもなく一番好きなヒョウタくんからこんなに好きになってもらえる化石がうらやましい。
化石になりたいなんて絶対に思わない。なれっこ無いし。
「そっか、化石堀りはすごく楽しいんだね」
ヒョウタくんにとっては、ね。なんて続きを隠した、ちょっといじけた相づちだったのに。なのにヒョウタくんは目を輝かせ噛みついてきた。
「うん、そうなんだ! だだだだから僕と一緒に行ってみない?」
「え、ヒョウタくん?」
あれ、そういう話につながる?
びっくりして、少しからだを引いたらヒョウタくんにちょっと傷ついた顔をさせてしまった。
「ご、ごめん」
「ううん。まさか誘われると思わなくって」
「あ、いや、その……」
尻すぼみにどんどん小さくなる声。まだまだ赤くなる顔。まさか、ヒョウタくんがさっき以上の状態になるなんて。ヒョウタくん大丈夫かな。まるでショート寸前で湯気か見えてきそうで、本気で体が心配になってくる。
グラグラと茹でられたオクタンにそっくりのヒョウタくん。けど次の告白はわたしに真っ直ぐ届いた。
「ちゃんに興味持ってもらいたくて。女の子にはつまらないかもしれないとは思ってた。けどでも、一緒に行ってみたくて……!」
「ヒョウタくん……」
ずっとヒョウタくんの赤面はヒョウタくんだけのものだったのに。じわじわと感染していく。体の芯が熱くほどけていくのを感じる。
今日はやたら熱く化石のこと語るなぁと思ってた。そんなに顔を赤くするほどかなぁってちょっと不思議だった。
もしうぬぼれるとしたら、今話してるのが本題だったりする?
すねていたはずの頭の中に、すとん、と落ちてきた。ヒョウタくんにあげたい言葉が重力にまっすぐ従って。
「うん、わたし、行ってみたい」
一気に爆発しそうになったヒョウタくんの顔に、わたしも心臓が破裂しそうになって思わずにスカートの裾を力いっぱい握った。