三人の幼馴染の働くレストランで、わたしは今日のお茶とケーキのセットをもらっている。
ひとりでのティータイムだけれどウェイターとして働いているのを見ていれば飽きることはない。赤、緑、青。三色の頭をした幼なじみが入れ替わり立ち替わり、くるくると店内を回っている。
ポッドは茶葉の踊る熱い紅茶を運び、コーンはつるりと冷たく光る皿を涼しい顔をして机に滑らせる。それにデントの静かな動作がつくる風は柔らかい。三人の個性が重なりあって人の賑わう店内は三人で回しているとは思えないほどすべてがスムーズに進んでいる。

デントもポッドもコーンもすごい。注文を受けたりたくさんのお皿を運んだり、なによりたくさんのお客さんに気持ちよい接客したり。そういうのはやっぱり才能あるからできることなんだと思う。
ウェイターの才能。レストランで楽しく働ける才能。加えて三人にはポケモンバトルの才能もある。素敵な幼なじみを三人も持ったわたしは幸せだ。

うん、今日のケーキも美味しかった。
フォークを置いた瞬間に、机になだれ込んできたのはポッドだ。


! 今日のケーキはどうだった!」
「んぐっ!」


紅茶に口をつけていたところいきなり現れたポッド。驚いてしまった瞬間に大量に飲み込んでしまった紅茶がのどを過ぎていく。


「やれやれ、ポッドはもう少し我慢を覚えてくれよ」


コーンがグラスに冷水を注いでくれた。ありがたくそれでのどの熱さを中和。


「ふう……。ありがと、コーン」
「大丈夫か!?」
「ん、なんとか」


わたしが笑って見せると、ポッドとコーン、そして仕事を続けながらも遠くでわたしたちを見守っていたデントがほっとため息をついた。


「ほんとに、もう……」
「どうしたの、?」
「不思議だなーと思って」
「何が」
「同じ両親から生まれてきたはずなのに、三人とも全然性格が違うところが!」


いつもわたしを驚かせるポッド。冷静で、大切なことに気づかせてくれるコーン。優しく安心させてくれるデント。
性格の違いは歩き方や、服の着方にまで出ている。ついでに言うと、頭の色もみんなバラバラだ。


「不思議すぎて親の顔が見てみたいよ!」
「見たことあるだろ」
「そうだけどさー、不思議だよ。小さい頃は三人がこんな風になると思わなかったもん」


わたしが本当に幼かった頃、三人は“三つ子くん”というくくりでしか見ることができなかった。でも今は三者三様、別々の良いところを持っている。
もう三つ子じゃない。デントとポッドとコーン。みんな別々の人間だ。


「三つ子なのにどうしてバラバラに育ったんだろう。デントはやさしくって、ポッドは熱い男の人になって、コーンはクールに育ったよね」
「それは……」
「お前、覚えてないのかよ!」
「え、何が?」
が彼氏にするなら熱い男が良いって言ったんだろ!」
「クールな男性がタイプって、自分の言葉を忘れたのかい?」
「えーっ? 言ってたかな?」
「みんな、ちょっと待ってよ」
「デント……」


気づけばさっきまでは見守る立場だったデントまでがわたしの机に集まっていた。


「優しい男の人が一番ってが言ってたから僕は優しい人になろうと思ったんだよ」
「そうだったの? デントは元々優しい性格じゃない」


小さい頃からデントは人の気持ちもポケモンの気持ちもわかる人だった。そっと隣に寄り添える人だった。


「それは勘違いしてるよ」


わたしの素直な感想に、返ってきたデントの表情は複雑だった。口の端が、笑い損なったように歪んでいた。


「……で、結局はどういう人が好きなんだい?」
「え?」
「ていうか俺らの中で誰が一番好きなんだよ!」
にはもう少し僕たちを振り回してるって自覚を持ってほしいな」
「えー!? そんないきなり言われても……、あーっ、ほらお客さん呼んでるよ!」


三人ともが視線を奪われたすきにわたしは自分の荷物をひっかけて走り出す。


「ごちそうさまでした!」
「あっ」
「ちょっと待ってよ」
「これから混む時間でしょ! 三人とも頑張ってね!」
「答えくらい残してけよ!」
「また今度ねー!」


顔の熱はお店を出た瞬間からぐんとあがった。のぼせてしまいそうな熱で目が回りそう。なんであの三人は女の子なら舞い上がってしまいそうな言葉をばっかり言えちゃうんだろう。


「自惚れちゃいそうだよ……」


三人から無理矢理逃げ出したわたしの頭の中では、ぐるぐると今日のケーキで摂った糖分と紅茶のカフェインがまわっていた。ぐるぐると、ぐるぐると。