※ヒロイン→レッドのヤンデレ気味です









もう、楽にしてあげようか? あたしが、君のことを。

雪原にひとりっきりな君を見つけると、あたしは使命に打ち震える。生まれてきた意味が胸に突き刺さって、心臓がきゅうっと締め付けられる。

シロガネ山の頂点でひとりっきり、誰も行ったことのない道を行くのはレッドさん。まだ人間の寿命の4分の1も生きてない人。なのに、もう一生分、静かに燃やし生きた人。まだ歩めてはいるけれど、もう追いかけられてるのか追いかけているのか、前後も左右も分からなくなってる人だ。
わたしは人じゃない。死神。レッドさんの死を夢見る死神。立ち尽くすレッドさんにそっと寄り添う死神。あたしは恋をしている。だからそっと、レッドさんの横でレッドさんを見つめ続けてる。レッドさんが振り向いてくれるのを待って見つめてる。

あたしの想いはひとつだ。レッドさんを楽にしてあげたい。たったひとりで戦い続けるのはきっと苦しい。だからあたしはレッドさんを解放してあげたいのだ。
あたしの手で、苦しみから解放してあげるの。この世では無いところに幸福はあるんだと教えてあげるの。
そのためにあたしは死神に生まれてきたんだと、確信してる。

あたしが死神になったのは、運命だったんだって感じられるのは、他でもないレッドさんのお陰だ。





「……ねぇ」
「なんですかレッドさん!」


レッドさんが話しかけてくれた。嬉しくて光の速さで返事をしたら、レッドさんは眉をひそめた。
呼んだのはレッドさんの方なのに。


「あんまり、こっち見ないでくれる?」
「なんでですか!」
「殺されそうだから」
「なんで分かったんですか!!」
「はぁ……」


吹雪に流されていったレッドさんの白い吐息。レッドさんの命もその白もやみたく吹き消えそうなくらいの篝火だ。あたしにはそれがちゃんと見えている。
レッドさんの灯し火はすごく魅惑的で、あたしはいつもうっとりしてしまう。光を失いかけてるレッドさんを見てると、まるで煮て溶かした真っ赤な苺を食べてるような、とろけるように甘い気持ちになれるのだ。死神という職業はあたしに向いている。


「まだこの世とおさらばする決心がつかないんですか?」
「おれは死ぬつもりないよ」
「どうしてですか? 意味、分かりません。何が楽しくて生きてるんですか、レッドさんは。死後の世界はとってもおすすめなのに」


あたしの誘いにレッドさんが興味を示したことは一度も無い。いつも頑なに唇を結ぶ。
あたしは本気でレッドさんは死んだ方が良いと思ってるのに。
死んでしまえばこんな何もない山から一発で、それこそ魔法みたく抜け出せるし、寒いとか寂しいとかもう感じずに済む。
レッドさんがもし、誰かトレーナーが自分に追いつくかもって希望を捨てられなくてここに立ち続けてるんだとしたら、尚更、死はおすすめだ。死んでしまえばお腹はもうすかないんだから。永遠に誰かを待っていられる。

あー、あたし、死神でよかった。だってこんなに至れり尽くせりな死を、あたしはプレゼントできるんだから。大好きなレッドさんに。


「どうして死にたくないんですか? 聞かせてください」
「どうしてって……」
「レッドさんは……、この世がそんなに好きなんですか!?」
「………」


レッドさんは無言。少し目はそらされている。
この反応はつまり、この世なんて別に好きではない、と。そうあたしは受け取った。


「死んで、何になるの?」
「いろいろありますが……。独りではなくなりますよ」


そうだ。死んでしまえば寂しさなんてなくなる。肉体に宿れなくなって自分という概念が消えるから、寂しいもへったくれも無くなるのだ。


「別におれは独りじゃない」


言うと思った。ポケモンはいつもレッドさんの勧誘の邪魔をしてくる。下手に心なんか持ったポケモンがレッドさんの存在をここに縛りつけるのだ。


「レッドさんのポケモン好きには呆れます」
「ポケモンのことっじゃ無いんだけど……」
「へ?」
「……なんでもないよ」
「えー……?」
「君はいつまでここに居るつもり?」
「もちろんレッドさんが死ぬまで」
「それじゃあ、ずっと一緒だ」
「む。それってどういう意味ですか!」
「そのまま」


意味が分からない。ポケモンじゃなく、レッドさんの死を阻害する存在があるなんて。
あたしは悲しくなった。ここに居ないのにレッドさんを縛る。その人は心の中に住んでる人に違いないから。



「なんですかっ!?」
「サマヨールはどうしてるの?」


なんだ、サマヨールのことか。レッドさんに名前を呼んでもらえたって、舞い上がって損をした。


「あたしのサマヨールなら……、あ、そういえばこの前進化したんですよ! ヨノワールに!」
「ふーん」
「強力パワーアップです!」
「……よし」


肩につもりかけた雪を払って、キャップを傾ける。おおこれは、レッドさんがやる気モードになった証拠だ。
ちょっと気分があがってきたレッドさんにあたしも釣られてワクワクしてくる。
視線と視線が合えば、それはもうバトルが始まるサイン。


「お付き合いいたしましょう! かもん、ヨノワール! あーんどヨマワル・サマヨール軍団!」


あたしのかけ声に呼応して、ぬうっと姿を現したヨノワール。そこらで浮遊していたサマヨールとヨマワルも集まってくる。
エースのヨノワールと、あとのポケモンたちでどれだけ戦えるかな?
この人に憑くようになってから、ポケモンを居ることが楽しくなった。レッドさんのお陰だ。

ああ早く、あなたの首に触りたいな。感謝の気持ちを込めて、安らかな死を受け取ってほしい。

でもとりあえずは、バトル開始!