ポケモントレーナーの旅に終わりはない、ないんだよって、今まで倒してきたたくさんのトレーナーは言っていた。本当にそんなお説教をしてきたトレーナーはいない。けど、過ぎ去っていったたくさんのバトル。その中に、頂点にたどり着いた人なんていなかった。わたしは飽きることなくバトルを重ねながら、心では少し泣いていた。ポケモンバトルのすべてを手に入れた人なんて誰もいない。みんな、道の途中。
8つのバッヂを手に入れたとき、わたしはシロガネ山へ入る許可をもらった。なぜ山に入るのに許可が必要なのか分からなかった。ずっと通せんぼしていた警備員を見つめても、何か怖いものと会ってしまったという顔をするだけだった。
ただグリーンさんを倒してやっと開けた道だから、進んでみた。どんなに強いポケモンが出てきても、わたしが全部倒せば良いだけの話。
シロガネ山の野生のポケモンたちは強かった。数も多く、これではこの付近に人が住むのは無理そうだ。つまらない。ドンファンたちと激しい攻撃を交わさせながら、ここにトレーナーがいたらなら、もっと楽しいバトルさせてくれるのかなって思いがふらつく。
わたしがしたいのはポケモンバトルだよ。ポケモンを強く育てる人がいなくちゃ意味が無いのに。ねえ、バトル、バトルをください。
どれだけ強くなったって、戦う人がねじ伏せるトレーナーがいなければ、わたしが強いか分からないじゃない。
わたししかいないシロガネ山。ここは寂しい場所だ。色も雪の白と岩の灰色ばかり。だから山を見上げて、微かな赤色が見えたとき、わたしの心臓は一瞬止まった。
驚いた。ここにはわたし以外誰もいないと思いこんでいたから。
この山の頂上にいる、あの人は誰?
シロガネ山にいるんだから、もちろん強いでしょう? 強いに決まってるよね? 強いならわたしとバトルして。
焦れば焦るほど、崩れる足下の雪。白色を蹴散らし、山肌に服を引っかけてもわたしは走った。寒さに死にかけていた肌が、息を吹き返してざわつく。
その人と対峙して、ついにここまできたんだ、って自然に思えた時は不思議だった。“ついに”って言葉を思わず使ったけれど、わたしはこの人を目指していたんだっけ?
わたしの頂点は別にここじゃない。どこかは分からないけれど。
ただあなたが目の前にいるから、やっとバトルの相手を見つけられたから、わたしはかみつく。
視線が合った。帽子の陰の下なのにぎらつく瞳。こんな場所にいるのだからどんなベテラントレーナーかと思ったら、年は同じくらいか相手の方が少し上。ふつうの男の人だった。
ようやく食べられるものを見つけた。のどが渇いている。すぐにかみついて歯を立てたい。バトルはもう、わたしにとって食事のようなもの、ううん、食事だった。
当然、勝てるものだと思っていた。どこからそんな自信が出てきたのか不明だ、わたしはトキワジムで一度グリーンさんに負けたのに。当たり前のように頂上にいた人のこと噛み切れると思っていた。
バトルはわたしの負けだった。
相手の一匹目はピカチュウ。可愛らしい小さなポケモンに、わたしは見事に不意を突かれた。ボルテッカーなんて、そこまでピカチュウに激しい戦い方をさせるトレーナーは初めてで、わたしは口の両端がつり上がっていくのが押さえられない。反則的な強さの彼。ようやく戦いがいのあるトレーナーに出会えた。歓びが高鳴って止まない。
あの人のことを考えると、睡眠が要らなくなる。すぐにまた会いに行きたい。わたしと視線を交わしてほしい。
ポケモンたちが元気になったら、またあなたに会いに行きます。全力であなたを倒したい。あんなトレーナーがいるなんて、シロガネ山、なんてすばらしい場所なの。