※ツワブキ社長の下のお名前についてネタバレあり
※ツワブキ社長と若い女性が不倫(多分)で男女関係持っている感じのお話なのでだめな人は読まないでください
念入りに歯を磨いて、毛の処理をして。こうして彼が舌先か指先か分からないが咥内まで触れられることを前提に自分の体を整える、そのことだけでもう、熱がくすぶるのを感じる。ただ想い人に抱かれるための準備をしているだけなのだが、わたしは大変なビッチになった気がしていた。……まぁ、人によっては、十分ビッチだろう。欲望に歯止めをかけないで妻子ある男性といたそうとしているのだから、確実に貞操観念というものは壊れている。
そうだ。これからわたしはムクゲさんと寝るのだ。とたんに頭の中に広がる甘いもや。
脳内で巡らせるこれからのことが果たして妄想なのかシミュレーションなのか、判別がつかない。
ふいに歯を磨く手が無気力になる。鏡の中をにらみつける。もやつく熱と、切なさと不安。
これからの行為が、世間から咎められるであろうことは承知していた。
切なさを抱くのは、わたしのためムクゲさんを悪い道を行くこと。不安を抱くのは、その罪の重さのため、ムクゲさんが「やっぱりやめよう」と言い出すのでは無いかと思ってしまうこと。
それでもわたしはシミュレーションを繰り返す。
もし、シャワールームを出て、ムクゲさんが戸惑いを見せたのなら、わたしは彼を押し倒そう。ベッドが近ければベッドへ、ソファに座っていたら、ひざにのしかかろう。社会のことを心配するなら囁こう。『ムクゲさんは悪くない、責任はあなたじゃなくわたしにあるの』と言って、この胸を触らせよう。あわよくば、キスをしよう。
口の中をすすぐ。そして微量に残った冷たい水道水を飲み込むと、そんな悪巧みまでもわたしの中に染み渡っていく。
新聞を読んでいたムクゲさんは準備を整えたわたしを見て目を細めた。その微笑を見て、わたしはまたドキドキしてしまう。
今している恋が普通ではなくても、ムクゲさんにときめく鼓動の音はなんら変わりない、心臓が収縮する音なのだなと遠い意識で考えた。
微笑したまま、ムクゲさんはまだ湿り気の残るわたしの髪を耳にかけた。いやにゆっくりな動作に愛しさを感じる。
「後戻りは出来ないよ」
「……、はい」
「いけないことなのは僕も君も分かっていることだろう?」
低いところを響く声にうつむくと、急に声色変わった。肩をすくめるお茶目な動作と一緒に、そんな不安そうな顔しない、といたずらっぽく笑われる。
「とりあえず、一緒にいたいんだから一緒にいようよ」
場に似合わないシンプルな物の言い方に思わず笑ってしまうった。その上に、手をゆっくりと広げて、音量を絞ったがゆえの掠れた声で「おいで」と、ムクゲさんにそう言われる。するとすっかりわたしは子供みたいな心境に戻ってしまった。
ひとつの仕草とひとつの言葉でわたしを子供に戻してくれたムクゲさんが、やっぱり愛しく尊く、いけないと分かっていても一緒にいたい人だ。
好きな人と一緒にいたいだけ。わたしはその胸に飛び込んだ。
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この設定絶対にダイゴさんからゴミを見るような目で見られる……。