今朝届いた封筒を休憩時間に取り出す。押さえきれないにまにま笑顔はやっぱり目立ったらしい。
「何だい、それ」
案の定シゲルに見つかって、彼はわざわざ壁に斜めに寄りかかって話しかけてくる。
わたしはにまにま笑顔のまま封筒の裏をシゲルに見せつける。
「じゃじゃーん」
「サトシからか!」
「そうなの」
「珍しいこともあるものだなぁ、あのサトシが手紙か」
「わたしが欲しいって言ったんだぁ」
「やれやれ、このご時世文通かい? サトシの文才に期待はできないと思うけど?」
「違うよ、シゲル。ちょっと待って」
わたしは封筒の中身を取り出す。中身は朝、家でも確認したのに、またどきどきとしてしまう。
「はいっ」
顔が赤いまま封筒の中身を見せつける。どうだシゲル! わたし、勇気を出したぞ!
納得してくれて、もしかしたら褒めてくれるかもと思ったのに、シゲルは呆れ顔だ。
「まさか、サトシに言ったのかい? “写真が欲しい”って」
「うん」
そう手紙の中身は写真だ。
この前、通信機で喋ったときのことだ。サトシはその時ハクタイシティにいた。ハクタイシティのジムリーダーさんはカメラの腕もすごいらしい。サトシたちも写真をたくさん撮られたと聞いてわたしは思わず「その写真、欲しい!」と言ってしまったのだ。
「小さい頃の写真とかならあるけど、旅に出てからは全然そんな機会無かったなぁって思ったら急に欲しくなったの」
「アイツ……。全く意味が分かってないだろう!」
シゲルが声を荒げた理由。それは写真のチョイスにある。
同封されていた写真に写っているのはサトシだけじゃない。旅の仲間全員が笑顔で揃っている写真だった。
サトシを中心にピカチュウ、ゲットしたばかりだというヤヤコマ。向かって左の笑顔はシトロンさんと妹のユリーカさんだ。そして右にはセレナさんがはにかみ笑顔で写ってる。彼女の綺麗な髪がサトシの肩にかかりそうだ。
「良いんだよ。どれでも良いからってわたしが言ったんだし。それにサトシらしいもん」
っていうか、サトシが一番かっこいい写真送って! できればドアップ!、なーんてこと恥ずかしくて絶対言えない。
どんな姿でも良い。旅先でも元気なサトシを知らせてくれるこの一枚はわたしに無限の元気をくれるし、わたしは「写真が欲しい」なんてわがままを言えたこと、それをサトシが聞いてくれたことが何より嬉しかった。
この写真を貰えたのは、ただの幼なじみからちょっとずつ前に進めている証拠。そんな気がしてる。
……それにしてもカロスの女の子っておしゃれだなぁ。元が細くて可愛いとおしゃれも楽しそうだ。白衣は楽だけど、それに甘えてちゃやっぱりだめだよね。
でも遠く離れたマサラタウンでおしゃれしても、サトシに届くわけじゃないしなぁ……。だからって通信する日だけ取り繕ってもぼろが出そうだから、おしゃれって難しい。
もんもんと考え始めたわたしの肩を、ぱん! とかなりの勢いで叩いたのはシゲルだった。
「な、何?」
驚いたわたしの肩をシゲルががっしりと掴む。
「よし、僕たちもサトシに写真を送ってやろう!」
「えー? 別にサトシは必要としてないよ」
「いや! サァートシくんが欲しいか欲しくないかは関係無い!」
「ええ?」
「良いから!」
なぜだか分からないけど、シゲルはサトシに対するライバル心が燃えたらしい。
わたしとシゲルはその後、数分しか残っていない休憩時間を駆使して写真を撮った。
「な、なんで肩抱くの?」
「気にしないでくれたまえ!」
突然のことで笑顔になりきれてないわたしが、妙に自信満々で挑発的な笑顔のシゲルに肩を抱かれた。そんなよく分からない写真がマサラタウンのポストを旅立ち、彼のいるカロス地方に届くのはたぶん、明後日、かな?