白無垢とサンシェイド


は子供にしては達者な受け答えをしたが、しょせん子供だったようだ。リビングに入るとすぐは封のされたクッキー缶を取り出して、開けて!早く!などとランスにねだった。
ランスは基本的に子供が嫌いだった。甲高い声をあげたりするし、総じて浅慮だ。
けれど状況という観点から見るならの様子はまあ、悪くないとランスは思う。幼稚であればあるほど丸め込みやすい。


「うわ、ランスすごい!」


大人の手を使えばパカリと簡単に開いたクッキー缶。も簡単に笑顔をこぼし、感動のままにソファーの上で跳ね回った。
雑用には変わりないが、案外チョロイ仕事かもしれないとランスは思い始めていた。ヒエラルヒーの最底辺で右に習えの仕事をこなしているよりは、はるかに解放された時間だ。


「すごい、すごい!」
「そんなに驚くことですか?」
「だってわたし、おとといからがんばってたのに!」
「……あなたは力が無さすぎです。自分の家の玄関も開けられなくてどうするんです」
「だってあれ、重いんだもの。変えてあげますってお兄ちゃん言ってくれたんだけど、それっきりなの」


わしゃわしゃとせわしなく、大根の髭みたいなの指が動き始める。クッキーに被せられたシートを、天女の衣を扱うみたくうやうやしくめくり、クッキーをつかもうとした時だった。
ランスの冷酷な言葉がに降り懸かった。


「手を洗ってきなさい」
「えー!」
「手を洗えと言ったんです」


忠告を無視して再度延びた手に、ランスも手がでた。パシッとその手のひらをはじき落とす。


「おなかすいたの」
「……新しい家政夫の言うことが聞けないのですか。私はあなたの面倒を見る役目があるんです」
「どうしても?」
「どうしても、です。……私も一緒に手を洗いますから」
「……はーい」
「洗面所はどっちです」
「こっち」


どうにか彼女を動かせた。
しょげたの背を押しながら、自分の台詞を反復してランスは空笑いをした。

“新しい家政夫の言うことが聞けないのですか”

自分は案外、乗り気なのか? それとも自分に子供を扱う才能があったのか?

とにかく初めての割には上手くを動かせていることだけは感じていた。