「おはよう」
階段を降りれば、朝日がまぶしいキッチンでダイゴさんがコーヒーを入れていた。うーわー、シンクの反射が目に痛い……。
昨夜はダイゴさんと、結局どこまで話したのか覚えていない。彼が立ち去ったところを覚えていないので寝顔を見られた可能性が多分にあるのが恥ずかしいところだ。
「コーヒーいれてあげようか」
「良いんですか!?」
「え、良いよ?」
「じゃあカフェオレで!」
「了解」
ちなみにいつものダイゴさんなら「好きなもの飲みなよ」と放っておかれるところである。直々にコーヒーをいれてくれるということは今日のダイゴさんはそこそこ機嫌が良いみたいだ。
「って、またトーストですか」
「え?」
「いや、文句あるわけじゃないんですけど……」
わたしは面倒見てもらってる身だ。お世話になっている身として文句は言わず何でも食べる気でいる。けれど、毎朝同じ朝食が続いて少しばかり本音が出てしまった。
またトーストか。ここ毎日の朝食は、っていうかわたしが来た日から毎日朝ご飯は堅くはないけど甘くもない食パンのトーストだ。
ダイゴさんという人は毎朝、モーニングコーヒーを煎れて、トーストを一枚さくさくかじって、それで全てすませてしまうのだ。
「あ、すごい今更だけど何か乗せたいものあった? 何、バターよりマーガリン派?」
「いやトーストから離れましょうよ!」
わたしでも朝もう少し食べないと頭が動かないのに、果たして成人男性のダイゴさんは毎日パン一枚で栄養が足りているんだろうか。線の細い体つきや指先とかは、見るからにほんの少しの栄養で動きそうではあるけれど。
バスケットに並ぶ、定規で測ったように均一な厚さの食パン。そこから一枚取り出してわたしも朝食をトースターにセットした。
「っていうかいつも知らない間にパンのストックが増えてて、わたし怖いです……」
「全部勝手に配達されるんだよ。知らない? “新鮮!ペリッパーびん”が来てるはずだけど」
「ああ! いつものお荷物ですーって来るやつ!」
言われてみればダイゴさん宅には定期的に荷物が届いたり、人が入る。人が入ると言っても、ダイゴさんと顔を合わせないことが多く、気づかないうちに伝票だけ置いてあるなんてこともザラだ。
なるほど金持ちニートには宅配サービスはかかせないらしい。
「あそこのサービスに生活必需品とかは任せてる」
「そうだったんですねー。よく分からなくて適当に返事してました。世の中にはいろんなサービスがあるんですね。通りで!」
「そうだよ。パンは料金先払い。僕は5年契約」
「えええー……」
5年……。今何年目か知らないけど、5年同じパンを食べ続けるなんて信じられない。とりあえずわたしはもうイヤになりつつある。
「ダイゴさんは、このパン好きなんですか?」
「美味しいらしいよ?」
「らしいよって。ダイゴさんの好き嫌いを聞いてるんですよー」
「別に。好きじゃない」
「じゃあなんで。パンずっと食べてて飽きないんですか?」
「飽きないよ」
「え、トーストが好きじゃないんですよね?」
「別に好きじゃないけど」
「じゃあなんで毎日同じものを……」
「んー……。大人っぽいだろ?」
絶対に即興で考えたよこの人。
「ダイゴさんにとっての大人っぽいの基準が分かりません!」
「うーん、楽しくなさそうに朝ご飯食べることかな?」
「ぷ、あはは!」
ダイゴさんもふふと貰い笑いをしてくれて、わたしにしっかりミルクが泡だったカフェオレをくれた。