2019年11月。ついに発売した剣盾は、そのゲーム体験において、私をお話を書きたくてたまらなくさせました。魅力的なキャラクターたちもそうですが、剣盾の中では今までのシリーズ作品とは違うポケモンのいる生活、その生活が営まれている世界が描かれているのが一因でした。
キバナさんの魅力が私にドンピシャで、加えてガラルにあるその世界観に入り込みたくて、カフェ店員という設定でこのシリーズを書き始めました。
とにかく書きたい気持ちが先行していたのでタイトルはかなり急ごしらえでした。
フラットホワイトとは、コーヒーの飲み方のひとつです。基本的にはミルクとエスプレッソを合わせた飲み物なのですが、カプチーノやカフェラテよりもエスプレッソが多く、苦味が強いです。スチームした柔らかなミルクに包まれながらも苦みも確かに存在する物語である、という意味を含ませて、フラットホワイトの憂鬱というタイトルに収まりました。
タイトルで意図したこともあり、途中まではかなり2人の平行線を保つように書いています。噛み合わなさやすれ違いを解消する気もなく、無責任に好きなように書いていました。ですがある日、ふと思ったんです。このヒロインはキバナさんを幸せにできるポテンシャルの持ち主なのかも、と。
その証拠としてこのヒロインさんは終盤、キバナさんの激重感情に対して、激重感情で殴り返せているんですよね。そんなこんなでこのヒロインとキバナさんの組み合わせなら、と思えてからはこのお話を再び見つめなおせて、このような形になりました。
最後は書きたいものが渋滞してしまったような気がします。とにかくキバナさんのこと、もっと語れる!!となってしまいました。
剣盾では、ポケモンバトルが私たちの世界におけるスポーツのようなポジションにあります。スタジアム戦はプロプレイヤーによるハイレベルな試合で、道端で繰り広げられるポケモンバトルはさながら草野球や、公園で友達とやったドッヂボールやサッカーみたいなものなのでしょう。
表面上は喜びや興奮が抽出されていますが、スポーツに例えながら考えることで、私たちは以前より容易くその苦悩を想像することができようになりました。それが剣盾という作品の特徴であるように思います。
主人公もその一人として設定されています。ポケモンとごく自然に親しみ、幼い頃に楽しく遊んだその延長でプロへの道を歩み、しかし挫折とともに意義を見い出せなくなり、ポケモンを愛する気持ちは残しながらもポケモンから遠ざかりました。だけどまたゆっくりとポケモンと触れ合い、きらびやかなものでなくとも生活を重ねていくうちにひとつ壁を乗り越えることができました。
主人公がもう一度ポケモンと生活し始めること。それがキバナさんにとっても、一歩を踏み出す大事な後押しになりましたが、剣盾の世界を書きたかったことを考えれば本当に必須のパズルのピースだったなと思います。
お話を連載するひとつの醍醐味は、物語の成長を見届けられることです。このお話も書き途中で様々な成長があり、ひとつの区切りにたどり着くことができました。物語の成長に必要不可欠な水と日光をくださったのは、やはり見てくださった方の存在です。言うなればご感想や拍手は水であり、見てくださった方の瞳は陽の光でした。
どちらもたくさん届けていただきまして、本当にありがとうございました。今これを読んでいる自分がいなければ、この物語は無かったと、ぜひ誇ってください。
まだいくらかお返事が終わっていないこと、誠に申し訳ありません。私がサイト運営を続けていくためにも、お礼と更新のバランスをとらせていただきましたが、お話の方が終わりひとつ肩の荷が降りましたので、その分のリソースを使ってまたいただいたメッセージにひとつひとつお礼を言わせていただければと思います。
そして白状しますと、このお話をオフ本にすることを考えています。自分へのご褒美です。
前回夢本を出した時、締め切りに向かってひとつの作品を磨き上げていくというのがとても楽しい体験でした。ですので、最初は勢いだけで書いていたこのシリーズも締め切りパワーを借りて磨かせていただこうと思っています。
ここで本の話をするのはとても恐縮なのですが、このゴールの先の作業が楽しみだったおかげで今日まで走りきれたところがありますので、ご容赦ください。
(12/22追記)
無事に加筆修正を終え、オフ夢本化することができました。詳細はこちらです。
今後は他の完結シリーズと同じようにこのシリーズも、番外編を書けたら更新するというスタイルに戻りたいと思います。
こんな話が読みたい、と声を聞かせてくださる方がもしいたら、夢本のアンケートで番外編リクエスト受け付けてますので、そこに入れていただけると助かります。
すんなりと完結したと見せかけて簡単な道のりではありませんでしたが、自分も書くことでキバナさんも剣盾の世界も見つめ直すことができ、とても素敵な体験をさせていただきました。
ゲームをプレイして見てしまった幻想を、このお話を通してあなた様と共有できていたら何より幸せです。
ここまでお読みくださり、本当にどうもありがとうございました!
なみ(2021/09/30)