わたしは子供みたく泣いていた。涙がこぼれてしまう理由も子供そのものだ。すりむいた膝が痛くて痛くて。普段は膝に傷を作ったくらいでは泣かない、というか痛みには慣れきってしまって痛いとも思わないのがわたしなのだ。
けれど今は涙が溢れてしょうがなかった。悲しさとも違った。生まれた時以来の大声を上げて、そう、わたしは誰かにかまって欲しい子供のようである。
期待を忘れたわたしが、何かを求めて泣きじゃくっている。それだけでも特異な状況である。
「すごい泣き様ですね」
「……アーロン、ど、の」
そして彼はひどく都合良く現れた。穏やかでいられないわたしに比べ、しげしげとわたしを観察している。
「見たことの無い顔をしています。何かあったんですか?」
「わた、わっわたじ、死んで、っしまいました……っ」
「ああ、なるほど。貴女のドジな一面が出てしまったんですね」
「ずみまぜ……」
アーロン殿、やっぱり知っていたんだ。わたしが皆が気づかないだけで要領の悪い子だった。
声が鼻でくぐもる。どうにか鼻をすすっても今度はそれがのどにつっかえ声にからまるのだった。
いつ擦りむけたか分からない膝が痛い。そしてアーロン殿の約束をあっさり破ってしまった事実がわたしを責める。
「ごめんな、さい……」
「仕方ありませんね。死んでしまったのだから」
「ごめ、なさい。でも、……あなだに会えで嬉っ、しい……!」
「……ああ、私もだ」
それを聞いた途端、わたしは言葉を忘れた。涙腺から全てを押し流すように溢れた涙で視界はもう使い物にならなくなった。元々聞き苦しかったというのに言葉を紡げなくなり、ああ、あああ、という獣じみた濁った泣き声でわめき散らすばかりだ。
膨張して、涙が落ちて収縮して、という視界でアーロン殿は呆れ顔だ。でも笑っている。それが心底嬉しい。
「なんと都合の良い夢でしょうか」
ひとつ息をついて、アーロン殿はわたしが思っていたことをぼやく。
「ああ、もう。お泣きなさい」
そう言ってアーロン殿がわたしの肩を抱いた。そっと下に引っ張られてされるがままに座り込んだ。うう、と呻きながらわたしがひとり膝を抱えようとするとそれは拒まれ、そっと後頭部に当てられた手で鎖骨の下に招かれた。驚いて腕をつっぱねたけれど、ぽんぽん、と押さえるように頭を叩かれてしまった。突き放す手が、彼の服を握りしめてしまう。彼の胸板に、涙が厚かましく染み込んでいく。
「こういうことさえ、したことありませんでしたね」
「う……、っく……」
「存分泣いてください。私はここにいます」
頭に乗る手のひら、その体温。わたしの髪が、彼の指に絡まっている。その贅沢さがまたわたしの涙を止める機会を奪って、奪って、奪って。わたしはここで永遠に泣く。そんな気がした。