(ハピエンにするだろなぁと思いつつ、当て所なく書き始めました。ちょっぴり続きます。終わりは見えていません。よろしくお願いします)




 数ある旅の楽しみ。そのひとつとして、私は旅先でポストカードを買う。買ったらなるべくすぐに、手狭な裏面に、つらつらとその時の細やかな思いを綴る。そのまま現地から家族や友人に、慎んで送らせてもらう。
 一応、勝手に送っているという自覚はある。なので自分のエゴと割り切りつつ、私の放浪癖を大いに理解してくれている相手へと送るのだ。

 青い空の下。初めて訪れるカフェ。周りも見慣れぬポケモンと知らない人ばかりの喧騒の中、私のパートナー・ハクリューは悠々と目を細めている。
 旅先で過ごすその日、私の手元にはポストカードが一枚余っていた。空から美しい街の全景を撮影した、観光地によくある絵柄のカードだ。
 第一候補の宛先へは書き終えてしまった。いくつかある第二候補の選択肢。そのカードを頭の中でシャッフルして、なぜか第三候補あたりにいるはずの男の顔が頭に浮かんだ。

 金の垂れ目、快活な男臭い表情。いつも一緒にいたピカチュウやリザードンの表情まで、同時に浮かんでくる。
 フリードは彼がポケモン博士になるずっと前からの友達だ。連絡はしばらく取ってない。

 絵柄が良いと思って、なんとなく買った。決してフリードに送るために買ったものではなかった。本当に、ペンを走らせたのも、なんとなくだった。
 家の引き出しにしまっておくよりは、旅先の偶然を楽しもう。そう思い、私は久しぶりに彼へと手紙を書いた。



 ハクリューとの短い旅を終えて帰ると、私を出迎えてくれたものがあった。ドアノブにひっかかった、ひとつの紙袋だ。
 中身を見て驚いた。遠方の地名がデザインされたクッキーの箱、それからフリードに貸した本だ。

「……あいつ、帰ってきてたんだ」

 しかも私の家の前まで来てたのか。そして私に会えず、この手土産をドアノブに引っ掛けて帰って行った、と。
 はあ、とため息が出たのは旅の疲れのせいだろう。
 しかし外箱をよく見てぎょっとした。

「賞味期限切れてるじゃん……」

 かなり前に買ったクッキーか、それとも私が今回の旅に出た直後に来たのだろうか。どちらにせよ、なんとも間が悪い男だ。
 そうフリードは間が悪い。前ならはそんなことなかった。けれど、ある時を境目に私とフリードはとことんテンポが合わない。

 境目ははっきりしている。彼と別れた直後からだ。



 私とフリードは付き合っていた。と言っても、ほんの数ヶ月の間だ。
 元は顔見知り程度の関係が長く続いた。けれどある日、フリードから、ひとりでご飯をしているところに勝手に相席してきたんだ。
 見た目の印象通り行動力のある彼は、何かいうより先に私の向かいの席にどかっと腰を下ろしたのだった。

「よう、

 目を丸くする私にフリードはにかっと笑って言った。

「ここ空いてんなら座りたいと思ってさ」

 急に相席してきた理由を、フリードは飾らず気取らず、素直にぶちまけた。
 確かに、店内を見渡すと狭苦しそうなカウンター席しか空いてない。それでも、ちょっと話したことがある間柄の人間の席に座もんなのか。私には理解できなかった。
 でも、まあ、いいか。そう思えた。

 最初にそうやって私がフリードのことを放っておいたから、それから彼は私がひとりご飯をしていると勝手に向かいの席に座るようになったのだ。

 相席したと言っても、フリードは案外話しかけてこない。本を読み出したり、ふうふう言いながらラーメンを啜り出したり。どちらかというとリザードンやピカチュウとの時間を勝手気ままに楽しんでいた。
 私との会話はゼロではなかったけれど、全てはタイミングと彼の気分次第だった。

 彼が勝手に座ってくる毎に、びっくりはさせられた。でも迷惑ではなかった。男兄弟もいない私にとって、男の人ってラーメンと餃子、本当に一緒に頼むんだなどの小さな発見はあり、退屈せずに済んだからだ。

 相席を皮切りにして、それからフリードと過ごす時間は増えて行った。図書館でも向かいに座られ、学習スペースでも顔を上げれば隣に座っていることが増えた。
「付き合ってんの?」と周りに聞かれて、毎回「そんなことは無いよ」と返答していた。その筈なのだけれど気づいたら付き合っている事になっていた。なんでだったっけ。今でもいまいち、境目が分からない。知らない間にフリードの中で私は恋人という事になっていて、知らない間に用意されていたフリードの特別席という居場所はそんなに不都合が無いもので。良いのかなと思いながら、私はそのポジションに甘えて行ったのだった。