「さんはワタルさんのこと、好きなんですよね?」
「そうだね」
「ワタルさん、それ知ってたんですよね」
「見ての通りだけど」
「………」
帰ってきたグリーンくんは机に突っ伏しながらわたしへいくつかの質問をぶつけてきた。多分彼が状況を整理するために必要なことなんだろう。
もう隠すことじゃなくなっちゃったし。そう思ったわたしは素直に答えを返していた。
「でも、ちゃんと告白したのは今のが初めてだったかな」
「……え」
「うん」
「……、ワタルさんはさんのこと、どう思ってるんですか」
「知らないよ」
「………」
「知らないし、ちゃんと聞いたこともない。けど、わたしのこと好きで大切にしててくれてるから気にならないよ」
「……嘘だろ」
「そういうことになってるの」
机に突っ伏した状態から顔を上げたグリーンくんは眉をこれでもかというくらいしかめた。
「あんた、意外とほっとけない人だな」
「敬語戻ってるぞー」
「心配してやってんだよ!」
「謝られるかと思った」
「謝るくらいならしねーよ」
わたしの一片残った女の子らしい気持ちを利用するのは卑怯な手段だって、やっぱりグリーンくんは分かっていた。一応ひとりの人間の気持ちを踏みにじる覚悟はしての行動らしい。
わたしとワタルの微妙な関係については予想外だったみたいだけど。
「なんで。なんでだよ」
「そう言われましても。なっちゃったものはしょうがないよ」
「あんたはそういうけど、ちゃんとワタルさんの気持ち聞いた方が良いんじゃねーの」
「答えは分かってるもの」
「分かるもんか」
「頷かないことだけは確かだよ」
「………」
わたしのひねくれた回答に、グリーンくんはまたそっぽを向いてしまった。
「ワタルは絶対わたしの気持ちに応えてくれないよ。けど、否定されたことは無い。嫌いだって口にしたことも無いんだ。ワタルは嘘なんかつかないし。でもいつだって助けて、心配してくれる」
今だってそうだ。わたしの、褒められる事でない黒い願いを助けようとしてくれている。
グリーンくんに負けた悔しさをねじ伏せて、わたしの味方になって、憎たらしいはずのグリーンくんを仲間にしてしまえ、なんていう提案もしてくれた。
「ね、ちょっと希望があるでしょ」
「どこがだよ……。フラれてもそこでなんで、なんで、どうして、って聞きたくなるのが女じゃねーの?」
「なんでもどうしても。わたしにはワタルの立場、気持ちが分かるもの。同じ、チャンピオンだから」
「チャンピオンかんけーねーだろ」
「うーん。また話戻っちゃうんだけどさ、チャンピオンという生き方を選べる人・選べない人っていると思うんだ。ワタルはもちろん選べる人。あの人は何かを背負うことに対して秀でてる、逆境やプレッシャーをちゃんと自分を伸ばすチャンスに出来るんだよ」
「………」
「もちろん、みんなそうだと限らない。強さって様々だよ、………」
つらつらと適当に流していた話題が、ふと繋がる。わたしが言いたかったことに。
グリーンくんが厄介事持ち出すから、ここにたどり着くまでが少し長くなってしまった。けど、グリーンくんの姿勢が少し変わった気がするか良いとしよう。それがわたしへの同情から生まれたものでも構わない。
「あのさ。グリーンくんのチャンピオンになりたい理由、新しいよね。ライバルがいるから、っていうやつ」
「別に珍しくないと思いますけど」
「そう? わたしはちょっと羨ましかったよ」
同年代で競い合える相手がいる。ホウエンでのわたしの旅に同い年の子なんていなかった。ジムを進むにつれ、わたしの旅は大人を打ち負かす旅になっていた。ヒワマキという田舎から出てきたせいもあると思うけれど、一重に時代が違うんだろう。
ポケモンセンターの充実。子供が旅することの一般化。多すぎたポケモンの秘密も少しずつ分かってきて、10を過ぎたばかりの子供がどんどん旅に出られるようになった。
そしてライバル関係も生まれやすくなったんだと思う。グリーンくんと、グリーンくんのライバルくんは途方もなく恵まれている。そうわたしには思えた。
「提案です。グリーンくん、取り引きをしよう」
君をここまで突き動かしたのがライバルだと言うのなら、わたしはそれを利用するまでだ。