トロピウスと飛行して、ホウエンリーグについてすぐのことだった。疲れがたたり、ソファで眠りこけていたわたしをプリムさんが揺り起こした。
「……ん、何……?」
「電話。愛しのチャンピオンからよ」
「わたる?」
プリムさんがうなづく。わたしはのどの調子を確かめながら電話に飛びついた。
「はい、です」
『!』
受話器越しのワタルは興奮していた。声に大きく吐かれる息の音が時節突風みたいな音を届ける。
「ど、どうしたの?」
『に言いたいことがあるんだ』
「うん」
『俺、レッドに負けたよ。全力でぶつかったのにまた負けたんだ』
負けたことを知らせる割に、ワタルの声はずいぶん明るい。
『この喜びをなんて表したらいいか、分からない! ずっと血液が沸騰しそうだった。ああ、マサラタウンからこんなにも才能を持ったトレーナーが現れるなんて! それも二人もだ。全く、驚かされるよ』
「ワタル……」
『俺を越えるトレーナーはいないんだろうかとか思っていた時間が馬鹿みたいだ。なんということだろう! 全てが吹き飛んだ、生まれ変わったみたいだ! 負けた瞬間ですら、俺は喜んでいたよ』
「良かった、ね」
『ありがとう! ならそう言ってくれると思っていた』
ドラゴン使いはきっと受話器を強く握りしめている。
『、見ててくれ。俺はまだまだ強くなる。最強のドラゴン使いの道を極める』
「うん、見てるよ」
『絶対だ。俺を見ててくれ』
「見てる。ずっとここから見てる。だからワタルもわたしのこと、見守っててね」
条件づけのように言葉を繋げる。
「わたしも強くなる。チャンピオンとして立派な人間になるから」
始終興奮したワタルの声を伝えて電話は切れた。
最後まで、ワタルはわたしが涙ながらにその声を聞いていたことに気づかなかった。
「プリムさん、電話、ありがとう……」
「、なぜ泣くの」
割と平気そうな顔は出来ていると思うけれど、涙だけはまだ止まらずわたしの頬を伝っている。
「ううん、強くなろうと思っただけ」
「あなたはまだ自分に満足できていないのね。わたしは一度だってあなたに勝てたことが無いのに」
「この道に終わりは無いよ」
「あなたの思う強さって何?」
わたしが想い描く強さ。
何者も寄せ付けないくらい完璧な強さだ。
何があっても傷つかない強さがわたしは欲しい。
強くなろう。強く、強く。
そう願う度にわたしの弱さをさらけ出すように涙は流れた。
「わたしが想う強さ、見せてあげる」
「………」
「わたしがこの身をもって実現するから。言葉で言うより分かりやすいでしょ」
指先で拭って、わたしは立ち上がる。
定められた位置に戻ろう。
わたしのあるべき場所。たったひとりが立てるホウエンリーグの頂点に、わたしは立っている。
おしまい