※セイボリー家に関するゆるい捏造があります。
ヨロイ島に行こうとするトレーナーも少ないが、そもそも行くことのできるポケモントレーナーも少ない中、ポケモンを持たない私がヨロイ島を訪れるのは一苦労だ。
ヨロイ島駅からマスター道場への道のりは短いようで険しい。駅を降りるとやせいのポケモンたちが悠々と、あるいは楽しげに息づいているものの、そのどれもが恐ろしく手強い。私がそこを歩こうと思うなら、そんなポケモンたちがいつ飛び出しても大丈夫なように付き添って、送り迎えをしてくれるポケモントレーナーを見つけなければならないのだ。
そして、腕の立つポケモントレーナーの付き添いはタダではない。トレーナーに支払う報酬とアーマーガアタクシーの手配と代金ももちろん必要だ。日々の可処分所得の中からお金をコツコツ貯めて、見知らぬポケモントレーナーに了承をもらって、ようやく私はセイボリーおぼっちゃまに会いに行くことができるのだ。
付き添ってくれるポケモントレーナーについては、誰でも良いと思っていた。ヨロイ島に連れて行ってくれさえすれば、そのトレーナーの素性に興味などない。
ただ、今回ばかりは私は失態を犯してしまったようだ。
「へー! 実家が使えてた、由緒正しい一家のお坊ちゃんに差し入れを、ねえ!」
軽薄そうな男の顔が向かいの席で笑う。
前回付き添ってもらった女性のトレーナーには、予定が合わないと断られてしまい、今回新しく依頼をしたのがこの男性トレーナだった。強そうなニャイキングを連れていたためにこちらから声をかけたのだが、数回話しただけで後悔が山となって募る。
なぜヨロイ島に私が行きたいか。短いとは言えない列車の旅の中、退屈を紛らわすために簡単に事情を説明したのも、また私の失態であった。
「ええじゃあお姉さん、メイドさんってこと!? すごいなあ、ほんとにいるんだなあ、メイドさん! あ、でも今日は普通の服なんですねえ!」
「………」
「じゃあお仕事の時はメイド服ってことかー! それは見てみたい!」
私が返事をしないことにも気づかず、男性トレーナーは目を輝かせる。
ヨロイ島駅に着くまでの辛抱だ。そう自分に言い聞かせ、私は押し黙り、ゆっくりと列車に揺られて寝てしまったふりへと移行した。
彼は私を俗っぽくメイドさんなんて呼んだが、正確には私はセイボリーおぼっちゃまのお家に仕えるメイドではない。ただ、生まれ育った家がそうだったというだけの話だ。祖父はお家を取り仕切る往年のバトラーであり、その気質を強く受け継いだ母もまた家政婦長として、旦那様や奥様を支える仕事を生きがいとしている。
親の姿を見て、子は真似るもの。大人たちが旦那様や奥様、そしてセイボリーおぼっちゃまにも最大限の敬意を払っている様を幼い頃からずっと目の当たりにしているのだ。祖父や母の矜持を持って仕事に当たる様は美しいものであったし、祖父や母の苦労を無下にした行動などできるはずもない。
それに私自身、はじめてセイボリーおぼっちゃまのお目にかかった瞬間から、幼心に刻み付けられてしまったのだ。美しい髪、扇のように長いまつげ、着こなしと姿勢と言葉遣い。生まれ持ったテレキネシスで周りに本やらボールやらを浮かべながら、セイボリーおぼっちゃまはなんとも麗しく、丁寧に私に挨拶をしてくれた。同年代の男の子と、全てが違うセイボリーおぼっちゃまとの出会い。それ以来私は彼をセイボリーおぼっちゃまと呼ばせていただき、祖父や母に所作や接し方の教えを乞いながら交友しながら身の回りのお世話もさせていただいている。
彼との会話は非常に疲れるものだったが、やはりポケモントレーナーとしての腕は確かだったようだ。ニャイキングはやせいのポケモンと渡り合い、つつがなくマスター道場にたどり着くことができた。
あの男性トレーナーは「もしかしたら修行中のジムリーダーに会えるかもしれない!」と探索をしたがっていたので、夕方になったら落ち合う約束をして、私はマスター道場の門を叩いた。
「ごめんください」
「あ、ちゃん! 来たんだね!」
出迎えてくれたのは、この道場のおかみさんであるミツバさんだ。大きな耳飾りが、ミツバさんの笑顔に合わせてきらりと揺れる。
セイボリーおぼっちゃまを訪ねるのはもう片手で数えられないくらいで、ミツバさんともすっかり顔見知りとなってしまった。
「お忙しいところをすみません。セイボリーおぼっちゃまはいらっしゃいますでしょうか」
「呼んでくるわね。ちゃんはそこ、座っててちょうだい。お茶も持ってくるから!」
「あ、私のことはお構いなく……」
「もう水くさいな! こんな辺鄙なところまで来たんだから疲れてるだろ!」
そう言い残して、ちゃきちゃきとミツバさんは道場の奥に消えていく。私はお言葉に甘えて、道場前に置いてあるベンチに座らせていただいた。数分して、温かなお茶を携えたミツバさんが戻ってきた。
「声はかけたんだけど、今手が離せない、だってさ」
「そうですか。お手間をおかけして申し訳ありません。ありがとうございます」
やはり今日も変わらない結果。あまりに予想通りでかえって笑いがこみ上げて来そうだ。
ポケモントレーナーにお金を払い、何度もこのマスター道場を訪れている。けれどセイボリーおぼっちゃに会えたことはなかった。たったの、一度も。
きっと今日もセイボリーおぼっちゃまは来てくださらない。わかっていたであろうに、それでもしっかりと声をかけてくれたミツバさんには頭が上がらない。
「セイボリーおぼっちゃまは本日も忙しく修行に励んでいらっしゃるのですね」
「うんうん、その点は心配いらないよ」
「重ねてお願いをして申し訳ありませんが、これを、セイボリーおぼっちゃまに渡していただけますか」
私はタクシーの中でもずっと抱えていた荷物をミツバさんに差し出した。バッグの中身は新品の白い肌着に、セイボリーおぼっちゃまの肌に合う湿布やクリーム、彼の好物、幼い頃からよく食べていたキャンディなどなど。
セイボリーおぼっちゃまにあれが欲しいこれが欲しいと言われたことはなく、全て私が勝手に揃えた。言うなれば私のお節介の塊だ。
「もちろん受け取るけどさ、少しはあたしと話していってちょうだいよ。こんな可愛らしい子が来るのは珍しいんだから!」
「恐れ入ります。私でよければ、お付き合いさせてください」
「絶対付き合ってもらおうと思って、お菓子も用意してあるから。ほら、食べて食べて!」
ミツバさんが差し出した大きな缶の中には、個包装のお菓子が様々入っている。付き添いのトレーナーが帰ってくるまで、私はここを離れることはできないのでありがたくミツバさんにつき合わさせていただくことにした。
「今日も差し入れ、ぎっしりだね」
「セイボリーおぼっちゃまが苦労されてるのではないかと思うとあれもこれも、お渡ししたくなってしまって、つい……」
確かに、今回もおぼっちゃまへの差し入れはかなりの重量になってしまった。荷物の重たさの分、私がセイボリーおぼっちゃまを思い、あたふたしたということなので、指摘されると恥ずかしさを覚えてしまう。
セイボリーおぼっちゃまは、私の差し入れをどう思っているのだろうか。結局このヨロイ島では一度も会えていないので、感想を聞くこともできない。不要ならば捨ててもらってももちろん構わないのだが、何か一言、感想を聞きたいものだ。そう思っても、今日もセイボリーおぼっちゃまは修行で忙しく、私に一瞬会いにくる余裕もないらしい。
「……あたし思ったんだけど。あの子さ、知らないんじゃない?」
「知らないとは、何をでしょうか?」
「ちゃんが自由意志でここに来てるってことだよ」
「私がお家との雇用契約などはないことは、セイボリーおぼっちゃまも知っているはずです」
「でもあんたのその喋り方!」
「はあ」
「所作も綺麗で羨ましいくらいだけどさ、ちょっとよそよそし過ぎるんじゃないかい?」
通常の友人同士の距離感ではないことはわかっている。だけれど幼い頃から今日まで、セイボリーおぼっちゃまという呼び方も含め、体に染み付いたもの。今すぐ変えられるものではないので、ミツバさんの言葉には困惑してしまう。
「おぼっちゃまなんて呼ぶから、初めはてっきり雇用主と従業員かと思ってたけど、違うんだろ? ご両親の仕事の延長みたくあの子の世話をしてきたって言ってたけど、別に家に仕えてる職業メイドさんではないって話じゃないか」
「はい。私は私の意思で、セイボリーおぼっちゃまのお手伝いがしたくて来ています。旦那様や奥様はもちろん、私の家も関係ありません」
差し入れは自分で勝手に考え買い揃えたものであり、ここに来るまでのお金も自費だ。お家に請求できるものは何もない。そこそこの出費であることは確かだが、セイボリーおぼっちゃまの助けになれるならと思うと、ついつい貯めてしまうのだ。
「それが伝わってないんじゃないかってことだよ」
「私がお家からの言いつけで来てる、と?」
「家族と本人との間に色々あるなら、なおさら近いけれど部外者のちゃんに色々託されるってのは自然な話じゃないか?」
確かに、セイボリーおぼっちゃまとお家の間には大なり小なりの確執がある。お家柄とお家を取り巻く環境に散々振り回されてきたセイボリーおぼっちゃまだ。このヨロイ島のマスター道場で学ぶにあたって、お家と距離を取りたがるのは当たり前だ。
けれど旦那様や奥様は、由緒正しき一族に未だ強くこだわり、そしてセイボリーおぼっちゃまへ執心されている。ミツバさん曰く、私はその手先と思われているらしい。
先ほども言った通り、私は自分の意思で、自分のお金で苦労してここまで来ている。それが奥様からの言いつけと思われ、セイボリーおぼっちゃまを想う気持ちが伝わっていないというのなら。
「少し、悲しいですね……」
胸がつきん、と痛む。
マスター道場の扉から、セイボリーおぼっちゃまが出て来てくれたことはない。だけど今日ばかりは来てくれないだろうかと思ってしまう。
差し入れなんて、ミツバさんに荷物を渡せば、数分で終わる用事だ。それでも付き添いのトレーナーと夕方に落ち合う約束をしたのは、ここで待っていればセイボリーおぼっちゃまを一目見ることが叶うのではないかと、望みをかけているからだ。
「ほんと、行き違いは悲しいねえ。でもね、ちゃん!」
「はい……」
「勘違いしてる節はあるけどあの子、大切な幼馴染だって言ってたよ! あんたのこと!」
ぽかん、と口が開いた。何があるわけでもないのに私は左を向いて、右を向いて、左上、右上も見てからミツバさんに視線を戻した。
「……セイボリー、おぼちゃまが、ですか?」
呆然とした私を見て「そんな顔も出来るんだね」とミツバさんは笑った。
夕方、約束通りにあの付き添いのトレーナーが帰ってきた。
時間切れだ。そう胸の中でつぶやいて、私もベンチから立つ。セイボリーおぼっちゃまを待ち、ずっと座っていたせいで、お尻が硬くなってしまっている。
「お邪魔致しました」
「また来なさいよー!」
手を振るミツバさんに一礼をし、私はマスター道場を後にする。それなりの息抜きの手伝いができたのだろうか、ミツバさんは晴れやかな顔をしている。対照的に、私は胸に鉛を抱えたような心地がしていた。
元気ならばそれでいい。そう思えるのに、矛盾して、顔が見たいと思ってしまう。その願いは今日もセイボリーおぼっちゃまの方からハシゴを外されてしまった。
私の心情に気づくことなく、付き添いの彼はジムリーダーには会えなかったが色々と珍しいものを拾ったと、聞いてもいないのに話してくる。サイコメトリーは仕えずとも、私への気遣いはきちんとしてくださる、セイボリーおぼっちゃまと雲泥の差だ。
とても疲れたようなふりをして、彼の話は右から左へ聞き流していた。にも関わらず、その声だけは私の耳はきちんと拾ってくれた。
「お待ちなさい」
「セイボリーおぼっちゃま」
「フゥッ……やっと終わりましたよ、ポケモンたちのデイリーお世話が!」
久しぶりにお会いしたセイボリーおぼっちゃま。酩酊しそうなくらい胸が熱くなるのを感じながら、私は付き添いの彼には先にタクシーに乗っていてくださいと伝える。駅もすぐそこだから、この距離なら私一人でも問題ないはずだ。セイボリーおぼっちゃまの周りで浮遊するモンスターボールに度肝を抜かれたようで、すごすごと駅に入っていった。
夕暮れの中で、お互いに沈黙する。ポケモンたちのお世話をしていたとのことだ。セイボリーおぼっちゃまの膝が少し汚れているのを見つけると、拭ってあげたくなる。けれど胸がいっぱいいっぱいに詰まっていて、私は動けずにいた。
「お、お元気そうで何よりです。お体も以前よりたくましくなられましたね」
「………」
「差し入れはミツバさんにお渡ししました。必要そうなものと勝手にいろいろと詰めてしまったので、御不要のものもあるかと思いますが……。おぼっちゃまのお好きになさってください」
基本的には愛想の良いセイボリーおぼっちゃまであるが、私はその微笑みをしばらく、もう何年も見ていない。セイボリーおぼっちゃまは苦々しく目を細めている。
「あの男はどこのどいつなんです。コスモパワーのかけらもないような男でしたが……」
「先ほどの彼のことでしょうか」
「彼……」
「付き添いです」
「わざわざ付き添いで、行きも帰りもあんな!? ここはサイトシーイングするような場所はありませんよ!」
彼がただの付き添いの割に、軽薄で馴れ馴れしかったことには同意だ。でも仕方がないのだ。私は誰かの手を借りねば、セイボリーおぼっちゃまに開いに来ることは難しいのだから。
「お言葉ですがセイボリーおぼっちゃま。普通のトレーナーでもなんでもない人間が、ヨロイ島に来られるとお思いですか」
「………」
「適切な報酬をお支払いして、ついて来ていただいています」
私にはもうひとつ、言っておきたいことがある。先ほどのセイボリーおぼっちゃはまは、行きも帰りも、と仰っていたのだ。
「ミツバさんは修行でお忙しくされてると教えてくださいましたが、見ていらしたんですね」
「うぐッ!」
わかりやすくセイボリーおぼっちゃまは仰け反る。やはりミツバさんの言う通り、意図して避けられていたのだろう。
「わ、わかりました。もうさささっと、おかえりなさい! ワタクシが見送ってさしあげましょう!」
ようやく直接会うことのできたセイボリーおぼっちゃま。私はもう少し、セイボリーおぼっちゃまと喋っていたかった。だけど、セイボリーおぼっちゃまは私を追い越すどころか、走って駅に向かわれてしまった。仕方なく私もその後を追いかけた。
駅の中では付き添いの彼が先にタクシーに乗って待っていた。もうお別れなんて、寂しさが抑えきれない。だが、帰らねばならない。ここで私がうだうだと戸惑えば、セイボリーおぼっちゃまも無駄に待たせることとなる。気を引き締めて、私も彼の隣に座ろうとすると、体がふわりと浮き上がって車の外に戻される。セイボリーおぼっちゃまのテレキネシスだ。
「なんと!? もしかして行きも、こんな……! ワタクシ、サイコショックです!」
そう言って、セイボリーおぼっちゃまを付き添いのトレーナーは別のタクシーに、テレキネシスで投げ入れた。本当に、放り投げると言いたくなるような半円を描いて、彼が飛んで、バタンとタクシーのドアも閉められてしまった。
呆然と見ていると、私も別のタクシーの車内へと座らせられた。
「ここから先は一人でも帰れますね」
「はい。セイボリーおぼっちゃま。わざわざお見送りいただき、痛み入ります」
「こ、これは、『セイボリちん、応援してくれる人の気持ちを大事にするのも大事な修行だよん』と、シショーがですね……」
「そうなんですね」
「まあ来てよかったです。ワタクシ、うっかりサイコファング、噛み付くところでした」
「はあ。……あの、セイボリーおぼっちゃま」
夕暮れの駅、赤い夕日を吸うセイボリーおぼっちゃまの髪や白い肌に目を奪われる。耳の後ろで鳴り止まない自分の鼓動の音。そこに重なるのは、ミツバさんに言われたことの数々だ。
「私、お家に雇われてるわけでもなく、お給金もいただいておりません」
「……知っていますよ」
「初めてお会いした時から私はセイボリーおぼっちゃまのことが気にかかって……。気づけばお側にいたいと、何か少しでもお手伝いできればという思いがありました。修行に行かれてからもずっとお顔が見たくて、会いたくて……」
「………!!」
「セイボリーおぼっちゃま。私のこの気持ちは……」
改めて自分の気持ちを言葉にしようとしているからだろうか。照れ、と思わしき熱いものがどこからともなくやってきて、私の体温をあげていく。
「幼馴染だから、だったんですね」
セイボリーおぼっちゃまのシルクハットから、浮遊していたモンスターボールがぼろぼろとこぼれ落ちる。どうやらセイボリーおぼっちゃまには当たり前のことをわざわざ口にしたためか、驚かせてしまったらしい。
「すみません、ずっと何と言っていいかわからなかったんです」
慌てて謝ると、床に転がっていたモンスターボールたちが気を取り直したようにまた浮遊する。セイボリーおぼっちゃまは顔を背けたまま「もう! お行きなさい!!」と声をあげると、柔らかな力が私を車内に再び押し込んで、タクシーのドアまで閉めてしまう。
やがて羽ばたき出すアーマーガア。私は急いでタクシーの窓を開け、地上のセイボリーおぼっちゃまへ声を張り上げる。
「あの、セイボリーおぼっちゃま! また、会いに来てもよろしいでしょうか!」
アーマーガアの羽ばたきに吹かれるおぼっちゃまは何も言ってくださらない。セイボリーおぼっちゃまが遠くなっていく。
願うように私は今一度、声を張り上げた。
「私が、おぼっちゃまに会いたいんです!」
「……、! アポイントメントというものをワタクシにするべきです!」
それは、つまり。セイボリーおぼっちゃまの言わんとしていることに気づいて、私は思わず涙ぐんでしまった。今までの散々勝手したきた差し入れも、セイボリーおぼっちゃまは受け入れた上で、会いに来てもいいと仰ってくれているのだ。
「っはい! ご連絡差し上げます!」
もう声は届かないかもしれない。だけど精一杯の声でそう伝え、随分遠くなったセイボリーおぼっちゃまへ私は大きく手を振った。
翌月。
「それではセイボリーおぼっちゃま。私は今からアーマーガアタクシーに乗りますので。……はい、はい、承知いたしました。気をつけて参りたいと思います」
通話を終了させて、私は彼へ向き直った。またもお金をコツコツと貯めて、今度雇ったポケモントレーナーはすでにアーマーガアタクシーの前で私を待っている。以前の軽薄な男性トレーナーには辟易させられたので、今度は落ち着いた雰囲気スーツをまとったベテラントレーナーにお願いした。
女性への礼儀と思っているのか、その彼はわざわざタクシーのドアを開けて私を待ってくれている。
付き添ってくれるポケモントレーナーは誰でも良い。ヨロイ島に連れて行ってくれさえすれば、そのトレーナーの素性に興味などない。求めていないエスコートには正直、恐縮で堅苦しく感じてしまう。
ポケモンを持たない私がヨロイ島を訪れるのは一苦労だ。だけど、セイボリーおぼっちゃまに会えるのならなんのその。はやる気持ちを抑えて、私は付き添いの彼とアーマーガアタクシーに乗り込んだのだった。
(「あえてまだ書かれてないキャラをリクエストさせて頂きます。セイボリーかクララでお願いします。」とのことでした。リクエストありがとうございました)