ぼくが幼なじみと呼べる子はひとりだけ。同じ年に生まれて、同じ町で育った子はあの子以外にもたくさんいる。だけど、ぼくにとっていちばん長く一緒に過ごしたのは、幼さを見せ合ったのは彼女だけだ。
人気のない墓地に、ふらりとは現れた。夏が終わってしまうところでありながら、秋にはまだたどり着かない。そんな、あの日のことを伝えようとするだけで疲れてしまうような、ぼんやりした季節の中だった。
彼女のことは名前だけなら知っている。同じ町に生まれた子供だから。一緒に遊んだこともあったのかもしれない。けれど、それはぼくが事故に遭う前のこと。それはぼくにとって、とても遠い日の出来事で、彼女のこともはっきりと思い出すことはできなかった。
とにかく、ぼくはある日、墓石と墓石の間にあの子を見つけた。何か考える前に体が動いて、ぼくは生垣の陰に小さくなって隠れていた。だって、ここは墓地だ。ぼくらが遊ぶべきとされる公園や広場なんかじゃない。こんな場所にいるのが見つかったら、またぼくは気味悪がられてしまう。見つかるなり悲鳴だってあげられてしまうかもしれない。そう思ったら、墓石の裏でぼくの体はぶるぶると震えた。
墓地を好きだなんていうひとに、ぼくは会ったことがない。だけどここはぼくの大事な居場所だ。だから膝を抱えたまま、ぼくはあの子、早く帰ってほしいなぁと願った。
なのに彼女は陽がくれてもなお、さ迷いつづけた。
そっと墓石から顔を出し、見ると、少女の背中がふらりと揺れている。ぼくは震え上がった。
「ま、まだいる……!」
普通の子供ならお腹が空いて、くたびれてしまう時間だ。足元の石も見えないくらいあたりは暗くなってきているのに、彼女を迎えに来る大人はいなかった。その子はひとりぼっち、墓地でうろうろする。そのせいでぼくもずっと出ていくことができないままだ。とうに疲れている。けれど、でも姿を見せるわけにはいかない、出ていけるわけがない。そう思い、ぼくは根気強く息を潜めた。
夕方を超えて夜を迎えて、ゴーストタイプのポケモンたちが行き来するような時間になれば。ようやくその子もいなくなっていた。
「はぁ……」
用心深く人気がないことを確かめてから、ぼくはそれでも音を出さないまま歩く。
いったい何時間、あの子はこの墓地にいたんだろう。ぬいぐるみやおもちゃも何も持っていなかった。彼女をかまって、守ってくれるようなポケモンもいなかった。何もなければ飽きて、別の遊び場に行ってしまう。その方がぼくたち子供にとっては普通だ。だけどあの子は友達と楽しく過ごさずに、墓石と一緒に今日を過ごしきっていた。
あの子のことが不思議で、ぼくは彼女がうろついていた墓石を見に行った。
その墓石はまだ新しかった。月明かりの下で、温度まで死んでしまった石に指を這わせて文字を読む。刻まれていたそれを見ると、ここに眠るのは89歳で死んだ女性の名前。没年は、今年。といより、日付も少し前だ。それからぼくは思い出した。つい数日前にあった葬儀のこと。そこに、小さな女の子の背中があったこと。
この前の、晴れた日のお葬式は、のおばあちゃんを弔うものだったのだ。
次の日も、はまた墓地に現れた。彼女のおばあちゃんが眠る冷たい石の前に。たったひとりで、ゆらりと現れた。
やっぱりぼくは彼女に見つかりたくないので、一番大きな墓石の裏で小さくなって彼女から隠れた。
今日もこの墓地で、長い時間を過ごすんだろうと思われた。なぜならの手には、本があるからだ。小さなポシェット、それから水筒を肩からかけている。準備は万端、というわけだ。
ぼくの見立て通り、はゴーストタイプのポケモンたちが息を吹き返して躍り出て来そうな、夜のぎりぎりまで墓石のそばで過ごして行った。
次の日も、そのまた次の日も。は何度でも墓地に現れた。街で見かけた彼女は同い年の友達が何人もいたはずだ。なのに、必ずひとりっきりだった。
墓地なんかで遊んでいたら、ぼくみたいに友達はいなくなってしまうんじゃないだろうか。そんな心配をぼくは彼女に向けて抱いていた。やっぱり震えて隠れながら、だけど。
がいるとぼくはこの墓地で何もできない。だからか、息を潜めながら、ぼくは時にいろんなことを考えた。
のおばあちゃんのお葬式が執り行われたのはよく晴れた日だった。この街では久しぶりのお葬式だったので覚えている。不思議なことにあの中に、女の子の泣き声はなかったなんてことも、ぼくは覚えていたのだった。
暮石の裏でぼくが震えたり飛び上がりそうになったり、そして彼女のことを考えたりしている間、は何も言わない石の前で、いろんなことをして過ごす。ひとりきりのおままごと。なわとびの練習。ポケモンたちを遠くからぼーっと見たりもする。人懐っこいホシガリスとたまに遊んでるのも見た。ほとんど捨てられていたボロボロのほうきを見つけ出して、墓地の掃除もしてくれた。この前の彼女は、枯れてしまった花束を林の陰に捨て、摘んで来た小さな花を物言わぬ石の上にそっと、乗せていた。は小さな墓守みたいただった。だけど、ぼくはやっぱり彼女に見つかる勇気が持てないでいた。
勇気はどこにもない。だから、ひとりっきりで毎日遊びに来るを、ぼくはただ見つめた。こっそりと、石の陰から。
その日のも、おばあちゃんが眠る場所の近くに座ると、持って来た本を繰り返し読んだりしていた。その横顔に悲しさはなくて、むしろ自分の部屋で遊んでいるのと変わらない表情にも見えた。お葬式に来る人々は、だいたい暗い面持ちだ。涙をこらえる姿もよく見る。だというのにの公園にでもいるかのような表情はこの場にすごく不釣り合いで、だけととてもぼくに近いような気がしていた。
「オニオンくん、だっけ」
「う、うん」
彼女の前に姿を現そうなんて思ってなかった。ただ、気づいたらがぼくを見つけていた。ぼくの頭が少し、暮石の裏から出てしまっていたのだ。
こんな場所に、自分以外の誰かがいるなんて。ぼくが驚いたのと同じように、彼女も目を丸くして驚いていた。でもすぐに、お姉さんみたく息を吐いた。
「わたし聞いたことある、オニオンくんのこと。事故があってから誰とも遊ばなくなって、ひとりで墓地にばかりいるって」
「う、うん……」
「それで? どうしたの? わたしに何か用?」
「………」
黙っていると、は花壇のふちに座った。真ん中じゃなく、左に寄ったところだ。右が、ぼくの分だけ空いている。ここに来いというの視線の意味はわかるけれど、彼女に近づいて横に座るなんて、ぼくには怖くてとてもできない。
ぼくが仮面の下、顔を青くして首を横に振る。そうすればは仕方ないとまたお姉さんみたく息を吐いて、そのまま話を続けてくれた。
「オニオンくんは言わないんだね。こんなところで何してるの、って」
「何してるかは、わかる、から……。多分だけど……」
「ふーん……」
なにせぼくは、彼女の祖母のお葬式からはじまって今日まで、ずっとのことを見て来たのだ。喋ったりしたわけじゃない、一緒に遊んでもいない。ぼくが何日もきみを見ていたこと、も気づいていなかっただろう。だけどぼくはずっとと同じ墓地にいたのだ。
「あ、あのね」
「なに」
正面からぼくを見るの瞳。それをに気づくとぼくは飛び上がりそうになった。瞳の丸さが、ぼくの影を塗り潰すように照らすんじゃないかと思えて、怖かった。だけどずっと墓地にいたぼくは、多分が意地悪をするような女の子じゃないことにも気づいていた。
「きみの、おばあさんなんだけど……」
「オニオンくん……?」
「会いに来てるんだよね、毎日。でもきっと、さ、寂しくはしていない、から。だいじょうぶだよ……」
「ねえ、もしかして……」
まんまるかったきみの目が、またお月様のように丸く開かれる。
「わたしのおばあちゃんが見えるの!?」
「いや、それは、その……」
「みんな、噂してるよ、オニオンくんのこと! オニオンくんはもしかしたら、事故にあってからゴーストタイプのポケモンだけじゃなくホンモノの幽霊も見えてるんじゃないかって!」
「み、見えないよ! 人間は……!」
ぼくは首と手を、飛んじゃってもいいっていうくらい、めいっぱい横に振った。
「なんだ……。期待しちゃったじゃない」
「でっ、でも! きみのおばあちゃんはだいじょうぶ、だいじょうぶだと、思う……」
「幽霊が見えないのになんでそんなことがわかるのよ。てきとうなこと、言わないで」
肩を落とす。ぼくが間違った期待を持たせてしまったせいだった。ぼくはあたふた震えた。でもにどうしてだいじょうぶなのかを伝えたくて、ぼくはひとつ、彼女に提案をした。
「あの、ま、また、夜に。来られる……?」
はうーんと、ひとつ唸ってからあっけらかんと頷いた。
「おかあさんが良いって言ったら、いいよ」
結果として、のお母さんは良いとは言ってくれなかったようだ。は大人も寝てしまった本当の夜更けに現れて「抜け出して来たの、秘密だよ」と、このスリルが楽しくて仕方がないという顔で笑った。
「ええっ! よかった、のかな……」
「いいの。一度ベッドに入って、このまま寝ようかとも迷ってたんだ。けどわたし、オニオンくんが教えてくれることを知りたいと思ったの。そしたらぜんぜん、眠れなくなっちゃって。ならもう、行くしかないでしょ?」
「うう……。きみのお母さんに叱られるかも……」
それでもいい、とはきっぱりと言い切った。
「すごく、おどろいたな」
「な、何が?」
「オニオンくんだけだった。わたしがどうしてここに来てるのかに気づいたの」
「うん……」
「わたしのこと、ヘンな目で見ないから。オニオンくんは本当に知ってるんだな、って思ったの」
ってこんな女の子だったんだ。ぼくは以前のをよく覚えていないので、思ったよりはきはきと喋るに少し驚いていた。だけど、すぐに納得がいった。多分これくらい強気なところがある性格だから、彼女は墓地なんて場所に遊びに来られたし、ひとりきりでも平気だった。
だけど本当の、凍るような真夜中には、さすがのも少し小さくなっていた。は墓地に目を凝らして言った。
「なんだか全然別の場所みたい……」
ぼくは逆に体が軽くて、すうっと胸が楽になるのを感じる。人の視線がいつもは怖いくせに、こんな時だけは飛び出して、ばあ!と両手を広げて驚かせてみたい気持ちが起き上がってくる。
「オニオンくんは怖くないの……?」
「う、うん」
「そうなんだ……。オニオンくん、やっぱりわたし、こわい……」
全てが、闇の中に溶けてしまいそうなくらい全てが黒い。今夜の月は折れそうに細くて頼りにならない。が怖がるのは当然だ。
「手をつないで」
「えっ!」
「だめ……?」
さっきまで強気だった女の子が、今は怯えを必死にこらえようとしている。でも顔は恐怖で青白い。この時間に来て欲しいと言ったのはぼくだから。手を差し出すと、はすぐさま手を重ねてきた。細い指がぎゅっとぼくの手を捕まえる。冷たい夜の中で、は暖炉の中から飛び出して来たみたいにあたたかかった。
一生懸命怖さをこらえているに、ぼくは気が紛れるよう、話しかけた。
「おばあちゃんは、どんなひとだったの……?」
「優しいおばあちゃんだったよ。とっても」
「実はぼく、きみの家のお葬式、見てたんだ。ほ、ほら。ぼくはいつも、ここにいるから……」
「そうだったの。……おばあちゃんがいなくなったの、本当に突然だった。お葬式の前の前の日まで、おばあちゃんは一緒の家でご飯を食べて、わたしを膝に乗せてお話を読んでくれたりした」
「………」
「おばあちゃんは、いつも言ってた。家族が大好き、家族のそばにいるのが幸せ。わたしが大きくなるのを見てるのが楽しい、って」
「だからはここに来たの……?」
は頷いた。
「だってこんなところにいるおばあちゃんは、寂しいに決まってる」
彼女みたいな優しい子が、いい子だって言われるんだろう。そしていい子だから、両親にも、亡くなったあばあさんにも愛されてた。
ぼくがこれから言うことは、きっとそんなに良いことでもない。だけど本当だ。ただ、本当だから、言うんじゃない。眠ってしまった家族のために毎日ひとりぼっちで墓地に通うに、伝えたいからぼくは言う。
「ねえ、あのへん、見て」
何もなかったところにゲンガーが姿を現す。暗闇からゲンガーがぬうっと伸びて、みるみるの背丈も追い越していく。後ろにはゴーストも、ゴースたちもいる。これから遊ぶんだ、と期待して、彼らの口はいつにも増して裂けていた。
ひっ、と横での声が引きつった。
「お、おおオニオンくんのお友達……?」
「う、うん」
声は震えていた。はゲンガーたちが怖いみたいだ。ぼくの手がさらに強く握られる。が怖がるから、ゲンガーたちはさらに嬉しくなって、またも口はを飲み込めそうなほど大きく釣り上がり、目がギラリと怪しく光った。
「ゴーストタイプのポケモンたちはね……、驚かせるのが好きだったり、人間の怖がるところが好きなんだ……。へんに思うかもしれないけど……、それがゴーストタイプのポケモンたちにとってふつうなんだよ」
「そう、なの……?」
「うん、だからゲンガーたち、今とっても喜んでる……」
「わたしは全然、嬉しくも楽しくもないよ!」
「そ、そうだよね……。でも、そうなんだよ……。ぼくたちと違うことが、彼らにとっては”ふつう”なんだよ……」
こんな暗闇の中で、恐ろしいものに出会う。たくさんの人間にとっては嬉しくも、楽しくもないことが、幽霊たちにとっては、楽しくて仕方がない。
喉が渇いたら水を飲むように、目覚めたら、他の生き物を驚かせに行く。だって、そうしないと動けなくなってしまうから。
ぼくの手は痛いくらいに握られていた。明日見たら、の握った痕がついてしまいそうだ。でもこれからぼくはにひどいことを言う。だから、これくらいの痛みは小さなことに思えた。
「きみのおばあさんも、もう……、”ふつう”が変わってしまった。ぼくたちの”ふつう”じゃなくて、ゲンガーたちと同じの”ふつう”の中だ……」
「………」
「嬉しいことも、悲しいことも、ぼくたちとは違うんだ……。生きてたおばあさんならひとりきりが悲しいっていうかもしれないけど、今は言わない。だって悲しくないから。幽霊たちには幽霊たちの楽しみがある。は悲しいかもしないけど……、ゲンガーたちは笑ってる。本人たちはそんなに悲しくないよ……」
この言い方で伝わるのか、不安だった。だけど、僕の手を締め付けていた熱がふとほどける。涙を拭うため、の手が離れていったからだ。
「おばあちゃんは、もうわたしと違うの……?」
「う、うん」
「生きてた時と、好きなことも違う?」
「うん……」
「だから土の中にいてもよくて、わたしに、お母さんお父さんに会いに来ないし、わたしが悲しいことも、おばあちゃんは悲しくなくて……」
ぼくがとても寂しいことを言っているのはわかっていた。きみの悲しみは的外れなんだよなんて、ひどい話だ。
「うん、は生きてるから……。おばあちゃんにも生きてた時みたいに、きみとの別れと悲しんでいて欲しいって思ってるよね……。でも、ゴーストや、ゲンガーがゴースを見て欲しいんだ……。彼らは悲しんで生きてないよ、笑ってる……」
「っ……」
「ゲンガーたちが笑うみたいに、たぶんおばあちゃんも笑ったりしてるよ。別のルールの楽しいことが、きみのおばあちゃんにもあるんだよ」
どっ、とが涙を溢れさせた。
「おばあちゃんの魂は遠いところに行ったって、お母さんが言ってた。でも、でもこんなの、わたしが知ってる”遠い”とぜんぜん違う……。遠いんじゃなくて、別々になっちゃったみたい」
そうかもしれない。死んでいると生きているは、絶対的な境い目があって、その中間はありえない。
おばあちゃん、会いたい、会いたいよう。でもできないんだね。ふつうなら会えるけど、もうふつうじゃないんだね、ふつうなんてないんだね。そんなことを繰り返しながら流れるの涙は大粒で、時々ぼくの指先に当たるとあったかくて、やっぱり生きているんだと思った。
の涙に引き寄せられたゴーストタイプのポケモンたちはあやしいひかりで踊り出す。
泣いているのをチャンスと言わんばかりに、ポケモンたちが忍び寄って寄ってたかってもっと恐怖を与え、声をあげさせようとしている。騒ぎを聞きつけて、ゲンガーたち以外にもボクレーが寄って来ていた。ヤバチャやポットデスが、泣き声をあげるの口にどう入ってやろうとかとそわそわ揺れている。
あたりは、珍しいくらいに賑やかだ。ポケモンたちがお祭り騒ぎをするくらい、の気持ちは悲しみややるせなさで大きく膨れ上がっているんだろう。
のなきっつらの前に飛び出て、べろべろとゴーストが舌を見せつけた。泣きじゃくっていたは、涙で見えにくそうにしながらもそのゴーストを見ようとした。
赤い目で、懸命に自分と違うものの姿を捉えようとしている。そして体を縮こませながらおそるおそる、人差し指でちょん、と触ろうとした。だけど相手はゴーストだ。彼女の指先が触れることはできなかった。
「あは、は、本当に、全然違うんだね……」
はぐちゃぐちゃの顔で笑ってから、また泣いた。
「オニオンくん! オニオンくん! オニオンくーん!」
墓地に強気な声が響いて、ぼくは飛び上がった。そのまま隠れているつもりだったのだけど、すぐに諦めることになった。だってが、墓石の裏をひとつずつのぞいて、ぼくを探し出そうとしていたからだ。仕方なく、ぼくはそうっと頭を出した。
「あ、いた! 探したよー!」
「う、うん……」
「この前はありがとうね!」
ぼくの体がぶるぶる震える。笑顔とお礼なんて、受け取っちゃいいのかわからないものを向けられたのが怖かったのだ。
「ありがとう、なんて……。ぼくは、謝りたくて……」
「謝る? 何を?」
「ごめんね、泣かせたかったわけじゃないんだ……」
「そんなのわかってるよ」
あっけらかんとは言った。あの夜はあんなに泣いていたのに、もうすっかり元気だ。はやっぱり、ちょっぴり強い女の子なんだとぼくは思った。
「オニオンくんはおばあちゃんがなんでもうだいじょうぶなのかを、教えてくれたんだよね」
「えっと、それは……」
それはちょっぴり違った。もちろんのおばあさんはもうゴーストたちのルールに在るいうことを伝えたくて、真夜中の墓地に来てもらった。だけど、ぼくが本当にしたかったことは違う。
が、もうひとりぼっちで遊ばなくていいように。優しいきみがおばあさんのことを想い過ぎないために、ぼくは考えると辛い、だけどぼくが知っている本当のことをに教えたのだ。
あんなには泣いていた。だからもうおばあさんが死んだこともよくわかって、もう墓地には来ないだろうと思った。それでぼくの願いはかなったと思っていたのだけど、はぼくの前で、少し緊張した顔をしているのだった。
「あのね、オニオンくん。急だけど、わたしの名前はっていうの」
「え……、ごめん、知ってる……」
「うん、わたしもオニオンくんの名前知ってる。そうなんだけどさ、改めて自己紹介がしたくなったの。それでね、オニオンくん」
は一度、言葉を区切った。何かを飲み込んでいるようだった。
「おばあちゃんはもう全然別の世界に行ってしまったけど、この世界に生きてる生きてるわたしとしてはね」
「う、うん」
「このあと、一緒にアイスクリームを買いに行ってくれる誰かがいないとすごくいやなの」
その時のぼくは、何を言われているかがすぐにわからなかった。の顔を背けられていたけど。けど手の平は、ぼくへ向けて、差し出しされていた。
言葉はぼくのことを呼ばないけど、手は、は、ぼくがついて来てくれるのを待っている。おねえさんみたいなお誘いだった。
「ぼくが行ってもいい……?」
お母さんにね、友達ができたって言ったら、少し多めのお小遣いをくれたの。そうは笑ってぼくの友達、そしてぼくの唯一の幼馴染として、再び手を結び直してくれたのだった。
(「オニオン君と幼馴染の女の子のお話を読んでみたいです…!」とのリクエスト、どうもありがとうございました!)