「そんな顔しないでよ」


 くるぶしほどに延びた草の中に寝ころんだ同田貫が、不服の視線を送ってくる。彼が何を言いたいのかは分かっている。武器なんだから戦わせろと言いたいのだ。
 同田貫のよく動く金色の目から放たれるギロリとした視線は、そろそろ慣れてきてしまい、もう怖いとは感じない。怖くはないけれど、己の未熟を散々理解している彼の主として不満を向けられると弱い。


「しょうがないでしょ。新入りも増えてきて、みんなの足並みを揃えないと」
「………」
「同田貫だけが強くなっても、ゆくゆくは敵に勝てなくなっていくし、そしたら同田貫の負担が重くなっていくんだよ?」
「俺は平気だ」


 同田貫の言葉をそのまま信じるのは、私には恐ろしくて出来ない。彼が刀剣とは言え、過度なストレスの先にばっきりと折れてしまいそうな、そんなイメージはどうしてもぬぐい去れない。
 無理をし、限界を知らなそうな、限界の向こうの死なら甘んじて受け入れそうな同田貫相手だからこそ、恐怖は増すのだった。


「なんと言おうと今は待機。今晩には遠征組も帰ってくるから、そしたら……」


 そしたら、私は同田貫正国を、戦場に送る?
 送り出すんだろうなと思う。歴史や、他のみんなを守るために、わたしは彼を戦力として使うだろう。

 ふう、と重い息を吐いて、わたしはごろんと同田貫の横に寝ころんだ。柔らかい草それぞれが跳ね返り、衣服の隙間からちくちくと肌を差した。


「髪が汚れるぞ」
「同田貫も同じでしょ」
「お前のは、違うだろ……」
「違わないよ」


 ここは野外だけれどすぐ横に彼がいるから大丈夫だ。そう思うと一気に体から力がぬけ、まどろみが襲ってくる。


「寝るのかよ」
「だめ?」


 もう半分寝言みたいな声で問いかける。帰ってきたのは言葉ではなく心底呆れたようなため息だった。

 同田貫と、平和は、案外よく似合う。
 どこからか来たモンキチョウが、わたしの耳の上から現れ、思わず首を起こして目で追う。その蝶はやがて、同田貫の呼吸を繰り返すお腹の上にとまった。
 同田貫の鍛えられた腹筋に、黄色の蝶。なかなかくすぐったい組み合わせに、なぜだかわたしの方がくすくすと笑いだしていた。
 ああほんとうに不思議だ。わたしが平和を愛していたことを彼が、同田貫正国が教えてくれる。