※刀剣たちはご飯いらない~とか書いてますが公式で明言されてませんのでねつ造気味。詳細不明のまま書いていますので注意してください。
食材を箸でいじくり回すのは行儀が悪いということを、彼女も頭では分かっているのだと思う。けれど、小鉢相手に箸を鈍らせてから随分経つ。彼女は煮つけた大根の葉に、まだ食べてもいないのに苦々しい顔して向き合っている。
そろそろ少女とは言えない年頃の彼女が、大の野菜嫌いだと知ったのは、今日みたいに向かいあって夕餉をとった時だった。ここでは食事時、日々によって、本丸に控える者によって席の配置というものが変わる。ある日偶然近くに座った時、彼女の箸の動きを見てみれば、器用に青いものばかりを避けて動くのだ。
私は言葉無く、「成る程、肌の白さの因果はこういうところにあるのか」と納得したのだった。
私は興味で彼女の手元を見ていたのだけれど、彼女にとってはそれが責めのように思えたらしい。気まずいそうに唇を歪めている。素直すぎる彼女に私も苦笑いだ。
「青菜がそんなに嫌いならどうして畑当番なんて内番決めたんだい?」
それは、“君が命じれば狩りをしてくる者だっているだろう”という意味合いで投げた問いだったのだが、彼女には伝わらなかったらしい。
気落ちした肩をさらに落として、は言う。
「私には必要無いけど……。みんなには必要でしょ?」
「と、言うと?」
「私がいつも食べてるようなもの食べたら、みんな舌が痺れちゃうよ。化学調味料とか入ってることも多いし。野菜の味も今と昔じゃ全く違うって聞くから、みんなが食べるためには作るしか無いかな、って」
「そうだろうか」
異議はあったが、私はそう言うまでに留めた。今は人のなりをしているとはいえ私らは刀剣だ。私らを構成しているものと言えば一番は鋼。こうして食べているものはどちらかと言えば、精神のための楽しみという側面が大きかった。
神社にいたときも同じだった。毎年私に送られる、米、酒、醤油などなどが私の血肉になったわけではない。供物そのものよりも、それに宿る信仰心が私を清めてくれた。
私らを戦へと命じる代わり、彼女はその他の利便など全てをはからってくれている。そんな彼女に軽率に、“本当は食事なんて必要ない”なんて言うのは憚られた。
「食べられないのなら、こちらに渡しなさい。私が食べてあげよう」
「も、もうちょっと待って。みんなが作ったやつだし……」
「そうかい」
「味は嫌いだけど、実った時や収穫は嬉しいんだよねぇ……」
一度大きくため息をつくと、たっぷりの湯呑みをつかんだ彼女。どうやら茶で流し込む作戦らしい。
「頑張れ」
「うん、がんばる」
本当は必要無いと思いながら、彼女の心遣いに何も言えないで食事をする私と、嫌いなくせに僕らに合わせて菜っ葉を食す彼女。
眩しいくらい遠い時代の女の子なのに、どうしてだか、私達は似たもの同士のようだ。
飲み込んだ。けれど舌先に残る青臭さが辛いらしい。えづく彼女の背を撫でて、「えらいえらい」と囁いた。本当に小さな背中だな。そう考える私は武器でも神様でもない誰かである。