※ハイパーネガティブで神経が細い審神主。シリアスめなお話です。
※燭台切本体が見つかる前に書いた話
手がぶるぶると震えた。同時に脂汗がじっとりと背を濡らした。胃がひっくり返ったかと思うような吐き気があり、私の顔はこの部屋の暗がりに負けないくらい青い色をしていることだろうと思う。
指揮を取り仕切る者がこの様子ではいけない。だから早く面を繕って外へ出ていかねばとと思うのだが、焦れば焦るほど動悸が激しくなる。
どうしてこのような未熟な私が審神者になってしまったのかと思うと、もう何も出すものが無いというのに胃が慟哭した。
「燭台切」
荒れる息をどうにか言葉を紡ぐまでに圧して、私は背後の影、しかし蝋燭の灯したような目を持つ影に声をかけた。
「あっちへ行ってくれ」
「どうしてだい。そんな顔色してる娘を置いておけるわけないよ」
「みんなは」
「平気だよ。それぞれ自由にしてるし、君がこうして苦しそうにしていることも知らない」
私に対応する燭台切の声は至って朗らかだ。動揺少なく、前へ面を上げる強さがこの男にはあると踏んで、私は彼を隊長に任命した。どうも根暗な私には、燭台切のような人物が必要だと思ったのだ。
だがこうして、私の醜い部分を見せるつもりでは無かった。
「あっちへ行って、くれないか」
「辛そうなのに放っておくわけないよ」
「私を見ないで欲しい」
「僕は見ていたいな」
燭台切はいつもこうだ。私が弱さをさらけ出しているのにわざわざ付き合う。私が無様に伏せているのが面白いのかもしれないが、その割に燭台切は優しい手つきで私を引き寄せる。
嫌な汗をかいているというのに厭わず、私の頭を膝に寄せ、そしてお前に実は母の血が流れているのかと思わせるほど柔い温度をもって私を慰めるのだった。
「燭台切」
「何だい」
「私は地獄へ落ちるんだ」
「どうしてそう思う?」
「……刀であった頃の君を、私は見たことがあるんだ」
弱い部分は山ほど見せてきた。けれどこの話をするのは今日が初めてだ。
「君だけじゃなく様々な刀を見た。特別な意味があったわけじゃなく、単に先祖の歴史を知るためだ。そう教養のひとつとして、私は幾つもの刀剣を目の当たりにしてきた。不思議に心惹かれて、刀剣を見学するのは好きだったな。
……燭台切。君は、本当に美しかったよ。人に長く使われた物には魂が宿ると言うが、鎮座する君を見て、ここに神が眠っているなどと幼いながらに思った。
なのに今私がしている事は何だ?
その眠りを醒まし、私どもの都合のために戦わせている。傷つけて治して戦わせているんだ」
歯を食いしばり、畳に爪を立てる。熱い涙が、燭台切の腿を伝って畳の溝に染みた。
「私は地獄に落ちるんだ……」
また吐き気がせり上がり、私の肩はしゃくりあげた。体を痙攣させ悪化していく私へ、今まで相づちさえしなかった燭台切がやっと声を出した。「ふうん、そっか」というやはり朗らかな声が震える。
「じゃあ君はさ、僕を戦わせた罪で地獄に落ちるってわけかい?」
燭台切は私を馬鹿にした風でも無く、しかし私に引きずられような重さも無く、只彼らしく笑った。
「それって最高だね」
今まで我慢していたというのに遂に泣き出した私の旋毛の上、軽率な燭台切の声が笑っていた。