ただいマルノーム、01



“では また いつか あおう!

     ツワブキダイゴより”










 波に揺れる船の中も、慣れてしまえば案外よく寝られる。到着の日となる今朝の目覚めはそこそこ良いものだった。

「ん、……」

 グラエナの熱い舌がわたしの頬を擦る。夢が薄れていくと同時に感じたのは、妙に暑い、ということだった。むわっとする暑さが船室の中にこもっていて、寝起きの体はうっすらと汗をかいていた。

「おはよう、グラエナ。さすがに暑いねー」

 長い体毛に覆われたグラエナは、案外平気そうなのはここが故郷だからかもしれない。グラエナ自身もふるさとを感じているのか、さっきから尻尾をちぎれんばかりに振っている。

 窓から入る日差しが強くて熱い。薄暗い船室とのコントラストが目に焼き付く。
 わたしはけだるく、けれどわくわくした気持ちで船室を出た。


 風の香りがぜんぜん違う。なぜだろう、カロスが嗅いだ香りより、奥深くにわたしの嗅覚が自然とつながっていく。それは、わたしが今までの成長を一瞬にして忘れてしまうような香りだ。

 青い海の向こうに横たわる緑の大地。あれがホウエン地方だ。すっきりと晴れた空で、山のかたちがはっきり見える。今日は灰もそれほどひどくないようだ。

 わたしはカバンからひっつかんできたサイコソーダを開けた。はじけ飛んだビンのふたをうまい具合にキャッチして、ぐいっと飲む。
 開けたてのサイコソーダ。わたしの体の中で、痛いくらいに気泡がはじけるのが分かって、少し涙がにじむ。
 もう一口飲んでから、あとはグラエナに飲ませる。案の定グラエナにも炭酸が染みたのか、ぶるぶると体を震わせるて喜んでいる。

 ちょうどよく、船内アナウンスが聞こえた。先ずはホウエンの西南に位置するムロタウンに寄るらしい。




“では また いつか あおう!”


 ダイゴが手紙の最後に記した言葉。あれは、わたしには約束には聞こえなかった。そうなったらいいな、という願いや希望のようにしか思えなかった。
 彼と何もないまま時が経った今、あの言葉はあるいは社交辞令の類に思えた。

 だから、ホウエンに帰っても、奴に積極的に会いに行くなんてこと、してやらないのだ。