“では また いつか あおう!
ツワブキダイゴより”
波に揺れる船の中も、慣れてしまえば案外よく寝られる。到着の日となる今朝の目覚めはそこそこ良いものだった。
「ん、……」
グラエナの熱い舌がわたしの頬を擦る。夢が薄れていくと同時に感じたのは、妙に暑い、ということだった。むわっとする暑さが船室の中にこもっていて、寝起きの体はうっすらと汗をかいていた。
「おはよう、グラエナ。さすがに暑いねー」
長い体毛に覆われたグラエナは、案外平気そうなのはここが故郷だからかもしれない。グラエナ自身もふるさとを感じているのか、さっきから尻尾をちぎれんばかりに振っている。
窓から入る日差しが強くて熱い。薄暗い船室とのコントラストが目に焼き付く。
わたしはけだるく、けれどわくわくした気持ちで船室を出た。
風の香りがぜんぜん違う。なぜだろう、カロスが嗅いだ香りより、奥深くにわたしの嗅覚が自然とつながっていく。それは、わたしが今までの成長を一瞬にして忘れてしまうような香りだ。
青い海の向こうに横たわる緑の大地。あれがホウエン地方だ。すっきりと晴れた空で、山のかたちがはっきり見える。今日は灰もそれほどひどくないようだ。
わたしはカバンからひっつかんできたサイコソーダを開けた。はじけ飛んだビンのふたをうまい具合にキャッチして、ぐいっと飲む。
開けたてのサイコソーダ。わたしの体の中で、痛いくらいに気泡がはじけるのが分かって、少し涙がにじむ。
もう一口飲んでから、あとはグラエナに飲ませる。案の定グラエナにも炭酸が染みたのか、ぶるぶると体を震わせるて喜んでいる。
ちょうどよく、船内アナウンスが聞こえた。先ずはホウエンの西南に位置するムロタウンに寄るらしい。
“では また いつか あおう!”
ダイゴが手紙の最後に記した言葉。あれは、わたしには約束には聞こえなかった。そうなったらいいな、という願いや希望のようにしか思えなかった。
彼と何もないまま時が経った今、あの言葉はあるいは社交辞令の類に思えた。
だから、ホウエンに帰っても、奴に積極的に会いに行くなんてこと、してやらないのだ。