ただいマルノーム、04



 ムロを発った船は、捨てられ船を通り過ぎて、ぐんぐんと人の気配のあるビーチへ近づいていく。ムロとは全く雰囲気の違う、パラソルの刺さった砂浜。潮騒の向こうで、うきわガールたちのはしゃぐ声が聞こえそうだ。
 まもなく、目的地のカイナにたどり着く。

 カイナ行きのチケットを買った理由は特にない。チケットが一番手頃な値段だったのもあるし、わたしの好きな町だったから、というのもある。
 わたしはカイナの景色が、カイナから見るホウエンの景色が好きだ。
 海、砂浜、にぎわう市場。けれどふと大陸の方を振り返れば、灰を吐くえんとつやま。その下に茂る濃緑の木々。空は今のところ快晴だが、空に立ち上る入道雲でいつ雨が降るとも分からない。

 波に慣れた体は地に足をつけるとふらついた。一歩一歩地面と自分の体がなじんでいくのを感じながら船着き場からでると、まぶしい光が差し込む。
 ふと顔を上げると放たれた風船がいくつか、踊りながら空へ吸い込まれていくのが見えた。
 この町は、歩いているだけで踊り出したくなる。


「やっぱり、カロスと全く違う。イッシュとも違う。カントーとも、シンオウとも……」


 旅先で港町ならいくつも見てきた。けれどこれほど活気溢れ、騒々しく人と物が行き来するのはカイナの他に例を見ない。

 とにもかくにも、町に着いたら一番に向かうのはポケモンセンターだ。道を思い出しながら歩く。けれど、つい、目は寄り道をしてしまう。そっけない建物からものづくりの音がもれる造船所。うみのかがくはくぶつかんは何度か行ったけれど、もう忘れてしまったことの方が多い。ただ、館内BGMが好きだったことを覚えている。
 久しぶりに行ってみようかな? 入場料はものすごく安かったはずだし。

 はくぶつかんの方を振り返りながら、ポケモンセンターに入ろうとした、わたしの前方不注意だった。


「う゛っ」
「わっ」


 胸元から下に衝撃があって、よろめく。


「すみません!」
「いや、こちらこそもごめんなさい。……って」


 わたしを見上げる、瞳のかたちで、ぶつかった人物がすぐに誰だか気づいた。本日二人目の、懐かしい人との再会。それは故郷ミシロタウンでよく顔を合わせて遊んだ、近所の男の子。オダマキ博士のとこのユウキくんだった。

 目を大きく見開いたまま、石みたいに固まっているユウキくん。目の前でひらひら手を振ってみるけど、反応なし。相当驚いているか、もしくは……


「あの、わたしのこと、覚えてる?」
「……忘れるわけ、ないでしょ」


 精一杯のか細い声。ユウキくんの、そのユウキくんらしい表情が見られただけで、わたしは満足だ。