ただいマルノーム、07



 たどり着いたキンセツは、まだわたしの知る景色が残っていた。ただ、町のいたる所に看板が立ち、建設予定表が貼られている。とりあえず、思い出の残るキンセツの景色にはギリギリ間に合ったみたいだった。

 カゼノさんのところへ寄る前に、二人でテッセンさんのジムを覗いてみた。残念ながらテッセンさんは不在だった。
 開かないジムの扉を前に顔を見合わせたわたしとユウキくん。話しかけてきたのは、たまたま通りがかった地元の人だった。


「あ、もしかしてジムの挑戦者?」
「まぁそんなところです」
「テッセンさんならいないよ! 今回の開発に、テッセンさんもいろいろ忙しいんだ。ジムへの挑戦はまた今度にしなよ」


 また、わたしとユウキくんは顔を見合わせた。


「テッセンさんらしいね」
「うん」


 新しいことが嫌いじゃないあの人が、大きな口を開けて笑うのが思い浮かぶ。





 カゼノさんのところで自転車を切り替える。自分で言い出したその用事が、カイナからのんびり歩いて移動して、ようやく完了しそうだというのに、ユウキくんは浮かない顔をしている。
 基本的にわたしから話しかけることの多いユウキくんだけど、ますますしゃべらなくなった彼に思わず苦笑した。
 自転車の交換なんていうのは言い訳にすぎないと、なんとなく分かっていた。


「もっと甘えて良いんだよ?」
「何が? 別に甘えたつもりはないよ」


 やんわりと当たり障りのない理由を作って、小さな望みをかなえた。だけど自分で言い出したことを、ひっくり返せない。器用なユウキくんの、そんな不器用な部分を見たのは何年ぶりだろう。

 マッハ自転車をダート自転車に切り替えて、ユウキくんは北に進路をとった。ポケモンセンターの前で、わたしが目指す西とは別れ道となる。

 自転車にまたがったユウキくん。その目の前にわたしは立つ。


「あのさ、星一緒に見られて嬉しかったよ」


 その頭を帽子の上から撫でる。両手で、包み込むようにして、そのまま耳の方までおろすと、帽子に器用にしまっていた髪がこぼれおちた。
 少し、汗の匂い。これから言おうとしていることも相まって、トウキさんを思い出した。


「また、星を見に行こうね」


 また会おうと、現実的に言える距離に、わたしは帰ってきた。


「今度はもっとよく見えるところで、星を数えよう」
「……うん」


 ユウキくんが何も言い出さないなら、これで良いんだと思う。
 自分の言ったことをひっくり返さないのも、ユウキくんの強さのうちだと思うから、わたしはただそれに倣って、この男の子の成長に付き合えば良いんだ。

 ペダルに足をかけたユウキくんは、最後にわたしに問いかけた。


「それ、いつかちゃんと叶うんだよね?」
「疑ってるの?」
はオレとダブルバトルの約束破ったよ」
「う……、それは……」
「忘れてた?」
「忘れてないよ!? 旅に出ちゃったから今まで実現不可能だっただけで!」
「ふうん」
「っ今回は心配しないで!」


 本当に叶うか分からない約束。それを前にした時、わたしが言われたいなと思った言葉があった。それは「叶うよ」とか「大丈夫だよ」よりももっとずっと、強い言葉。


「叶えにいくよ!」


 言葉ではなんと言えるとしても、わたしは約束に約束を重ねて欲しかった。その人の全部をも巻き込むような約束を。