カナシダトンネルは名前の通り、カナズミとシダケを結ぶ、人工のトンネルだ。
「わー、ほんとにトンネルがあるよ……」
思わず立ち止まって、その入り口を見上げる。まだ粗野な感じが残るこのトンネルを見るのは実は初めてだったりする。
ホウエンの西と東を結ぶための交通路として、計画が持ち上がったのはそれこそわたしがトレーナーになるよりもずっと前。それこそ生まれた頃だ。
けれどその計画は頓挫した。トンネルを掘る機械による周りのポケモンへの影響を考慮して、中止が決定したのはわたしがトレーナーとして旅だった頃だったと思う。
それから何年も音沙汰が無かったカナシダトンネル開通のニュースは、ホウエンを旅立つ直前に聞いたのだ。こうして実際に使用するのは今日が初めてである。
丁度、わたしとすれ違うように、男がシダケタウンに到着した。大柄なたくましい体とはミスマッチな可憐な花束を持っている。その花のような頬の色から、彼はおそらく恋人に会いに行くのだろう。
距離が近くなる、会いに行こうと思ったときに会える。このトンネルは町だけじゃなく、あの人の恋も繋いだらしい。
トンネルの奥をのぞくと、薄暗い中で影がうごめく。ふたつの大きな耳を持ったポケモン、ゴニョニョだ。
トンネルの中には噂通り、たくさんのゴニョニョたちが生息している。ゴニョニョが騒ぎだすとそれはもううるさい。なるべく静かに通り抜けるため、つい、いかくをしてしまうグラエナのボールは一番最後に回した。
わたしの育てたポケモンに比べれば、まだまだか弱いゴニョニョたちをかわしながら、シンプルな作りのトンネルを進む。
出口から開けた視界に、わたしは思わず歓声をあげた。
「あー、ここに出るんだ!」
だってそこは、わたしが幾度となく遊んだくさむら。116ばんどうろだったからだ。
それはまだ、両親に旅に出る許しを貰えなかった、幼い頃。わたしには親に送られながらカナズミシティに通う習慣があった。まだ幼いわたしを旅には出さない。けれどポケモンのことを学びたいのなら、とトレーナーズスクールに入学させてもらったのだ。
早朝、ミシロタウンを出発してカナズミのトレーナーズスクールでポケモンの基本的な知識を学ぶ。そして放課後になれば、カナズミの北東につながる116ばんどうろに繰り出すのだ。そこにはトレーナーがいるし、やせいのポケモンにも出会える。
げんに今も、116ばんどうろに、ちらほらじゅくがえりたちの姿が見られる。彼ら彼女らは、高確率でわたしの後輩なはずだ。
カナシダトンネルという初めて通る道から、わたしのルーツとも言えるような116ばんどうろへたどり着いて、わたしの頭はすっかり、あの子のことを思い出していた。
トレーナーズスクールの成績ではいつも勝てなかった。まじめで、優秀で、だけど努力家でもある。そんな部分を今も尊敬しちゃう、わたしの大好きなクラスメイト。
ツツジ、元気にしてるかな。