トレーナーズスクールを卒業し、いよいよトレーナー修行の旅に出たわたし。全てが未知のフィールドへ飛び出した。
初めて行く町、初めて歩く場所。そして初めて出会う人。なのに、先に彼がいるということがよくあった。
空の下で、その空の色を吸い取ったようなダイゴの頭を見つける。
わたしがフライゴンと出会ったその日。キンセツシティを北に歩いた先で、いわくだきをして開けた視界の中にダイゴを見つけたのだった。
「やあ、。また会ったね」
わたしがカナズミシティでうっかりどろぼうをしそうになったというのに、彼は何事もなく、わたしに笑顔を向ける。
わたしはまだ犯しそうになった罪を小さく思い出す。自分のしたことを思い出して恥ずかしくなる。けれど、至って普通なダイゴの前ではわたしも習って、なんでもないフリして話しかけていた。
「うん。偶然だね。ここら辺も石がとれるの?」
ダイゴはもうすでに8つのバッジを手にいているはずなのに、こうしてホウエン各地をふらふらしている。その理由は例外なく、石。彼が石を求めているからなのだ。
だからわたしはダイゴを見つけると、「ああここもきっと石が採れるんだろう」といつもそう納得していた。
「石じゃないよ、今回は化石。見てよ、ねっこのかせきとツメのかせき!」
「へぇー、すごいね」
「きれいだろ?」
「う、うん?」
そういってダイゴはふたつの化石を見せてくれた。彼が取り出した拍子に化石からは砂がさらさらとこぼれ落ちる。
その砂の色を見て、すぐにピンと来た。
「ダイゴ、これもしかして、111ばんどうろで手に入れた?」
「うん、片方はそうだよ」
「どうやって入ったの? 111ばんどうろはすごい砂嵐なのに……」
「ああ、実はね」
そう言ってダイゴが取り出したのは、ごてごてとしたゴーグルだった。
「これ、うちのおやじの会社が作っているんだって。商品名はゴーゴーゴーグルになる予定」
「予定?」
「うん、まだ開発段階なんだ。特別に譲ってもらった。最後の調整には入っているらしいけど、でも僕は十分使えたよ。……使ってみるかい?」
知らない世界を知ってみたい。新しいポケモンに出会いたい。それがわたしの旅の原動力であり、111ばんどうろはわたしにとって、未開のフィールド。断るという選択はまず、思い浮かばなかった。
「……良いの?」
「うん!」
ダイゴは笑顔をはじけさせてうなずいた。
ダイゴからゴーゴーゴーグルなるものを受け取って、わたしは早速すなあらし吹き荒れる111ばんどうろへ乗り出した。そこで、後のパートナーとなるナックラーに出会ったのだ。
新しい仲間が入ったボールをしっかり掴んでわたしは元の場所に戻ったけれどそこにダイゴの姿は無かった。彼は先に進んだのかもしれない。
そう思ってさらに道を駆け足で追いかけると、彼はほのおのぬけみちの前で佇んでいた。
「ダイゴ!」
わたしが追いかけてきたのが予想外だったらしく、振り返った彼は目を丸くしていた。
「探したよ! こんなところにいたんだね」
「う、うん。このほのおのぬけみちは、ほのおのいしが採掘できるから。といってもかいりき駆使した奥の方でなんだけど」
「あはは、また石なんだね。それより、見て! わたしの新しいパートナー、ナックラー!」
わたしはボールを投げてダイゴにナックラーを紹介した。
「へぇ、じめんタイプのポケモンか、はナックラーが気に入ったんだね」
「うん! すなあらしの向こうに、こんなポケモンがいるなんて。ダイゴのゴーゴーゴーグルのおかげだよ、ありがとう!」
「う、うん……」
そしてその時、わたしはナックラーに話しかけたのだ。
「ナックラー、この人はダイゴだよ。わたし、この人のおかげで貴方に出会えたの」
ナックラーだった頃の彼はまだ表情の変化があまり無かった。けれど、ナックラーは円らな瞳で確かにダイゴのことを捉えていた。わたしとナックラーを繋げてくれた存在として。
「なんだか照れるな」
「本当に感謝してる! ありがとう、ダイゴ! それじゃあこのゴーグルは返すね」
借りたものを返すのは当然のことだと思っていた。わたしがゴーグルを取り出しダイゴの手に乗せると、ダイゴは戸惑ったような表情をした。
「良いの? 僕はにあげるつもりで……」
「そうだったの?」
「う、うん」
「そうだったんだ……。ありがとう、もうナックラーに出会えたし、十分だよ。やっぱり返すね」
ダイゴはまだ何か言いたげだったけれど、わたしは少し強引に彼にゴーグルを握らせた。こんな貴重なものもらってしまうなんて悪いもの。それに日夜石を求めるダイゴの方が重宝するはず。わたしにはナックラーがいる、それだけで十分だ。
「それじゃあ、またね!」
先に歩きだしたのはわたしだった。ナックラーが加わった旅にひらすら胸が躍っていた。
ゴーグルを握りしめたまま立ち尽くすダイゴは、すぐに遠く、見えない距離に消えていった。