ただいマルノーム、26



 最初はただ、シンプルに、旅のそこかしこに現れる彼に、小さな恋をしていた。勝手に期待し、勝手に失望し、いつの間にかどんよりとどす黒い色の臭気を放つようになったわたしの心。触れるのも嫌なそれに、放り投げるように蓋をしていた。
 それが、ほとんど何も無い彼の家によって開かれるなんて。

 自分の醜さをまざまざと思い出し、晴天の下だというのに心は暗かった。
 もう暑さはわたしの精神を脅かさない。だからトクサネから去ろうとするその足取りだけはさっきよりもしっかりしていた。

 直に海が見えてくるところだったが、道の途中でそのふたつの陰は立ちはだかった。


「ちょっと!」
「待ってヨ!」
「はい?」


 小さなふたりが道の上で、行く手を阻むように立っている。わたしは息を飲み込む。そのふたりがとても良く似た、男女の双子だったからだ。
 髪をすっきりと結い、民族衣装に身を包んでいると性別が曖昧に見えてますますそっくりだった。
 双子はなんだか雄々しく言う。


「お姉さん、ポケモントレーナーだよね?」
「ポケモントレーナーなら帰る前に」
「まだやることあるデショ?」


 そこそこ育ったわたしのグラエナははたから見てもそこそこのたくましさを醸し出している。そのグラエナを連れているのだから、わたしがポケモントレーナーであることは一目瞭然だろう。
 けれど、ダイゴの家から出てきただけでよく帰るのだと分かったな。そんな僅かな驚きがあった。


「ほら、よく思い出してみなよ」
「……? そういやソライシ博士元気かな」


 この二人のおかげで、宇宙センターの方には顔を出していないことを思い出す。


「違う!」
「〜っそうじゃなくて!」


 ソライシ博士のことは個人的には盲点をつかれた思いだったのだけれど、二人の子供が言いたいことはそうじゃなかったらしい。
 耐えかねた双子が腰から取り出したのはモンスターボールだ。


「……、なんだ」


 二人はポケモントレーナーだったのだ。そういうことなら。わたしもトレーナーの端くれ。受けて立つ。


「ようやく分かってくれたみたいだね」
「気づくの遅いヨ!」
「ぼくはフウ」
「あたしはラン」
「わたしは、。バトル、受けてたつ!」


 さすが双子と言うべきか。彼らが瞳に炎を宿し、ボールを投げる。その息は二人の人間とは思えないほどぴったりだった。

 ルナトーンとソルロック。月と太陽を模したようなポケモンが2体出そろった。
 ダブルバトルは久しぶりだ、つい、にやけてしまう。

 やる気満々に前へ出たグラエナ。わたしは二番目のボールを手にとった。