ルナトーンにもソルロックにも、グラエナの牙はこうかばつぐんであった。悪の力を宿した歯牙はいわタイプの彼らにも突き刺さり、エスパーの力を大きく傷を入れる。
ルナトーンとソルロックは即座に体勢を崩し、すでにひんしに近いようだ。もちろん相性を呼んでグラエナに攻撃を命じた。けれど、予想以上にこうげきが通ってしまったことにわたしは動揺していた。
わざが、効きすぎている。
それはフウとランと名乗った双子たちも同じようだった。
「待って!」
バトル中にトレーナー側が制止を入れるのは、基本的にマナー違反だ。
けれどわたしはグラエナたちを下がらせた。バトルに対しての違和感がわたしにもあったからだ。
「こんなこと言いたくはないけど」
「今のは手加減したのヨ」
「手加減……?」
「僕たちてっきり、トクサネジムの挑戦者だと……」
「あなたたち、ジムリーダーだったんだ……!」
こちらを挑発するような好戦的な態度。自信に満ちたオーラ。「ポケモントレーナーならまだやることがある」とわたしを引き留めた言葉。
いろいろなひっかかりが全て流れて、すとんと事実が胸の中に落ちる。
「トクサネジムのバッジならもう……」
わたしは慌てて上着の中のポケットに手をつっこんでバッジケースを取り出す。
やっとホウエンのバッジケースを取り出し、その中からトクサネジムのジムバッジを取り出した。何年も前に先代のトクサネジムリーダーから勝ち取ったものだ。古いけれど、ちゃんと本物のバッジである。
「やっぱり」
「挑戦者にしては強すぎると思ったヨ」
「ぼくたちが覚えていないってことは、以前のジムリーダーから勝ち取ったバッジなんだね」
「こう見えて結構年?」
「っこら! 女性の年齢はデリケートなんだからね」
そりゃあ、このフウとランに比べればおねえさんだとは思うけれど年呼ばわりされるなんて……。ちょっぴり傷つく。
「でも、そっか。貴方たちも本気じゃなかったんだね」
言いながらわたしはほっとしていた。まだ子供といっても、この双子たちの実力はこんなものじゃないとわたしの勘が告げていた。
彼らのポケモンが強いとは言いがたいレベルだったのは、わたしの実力を見誤ったからだ。
この子供たちは特別勘が良いらしい。わたしの期待を見抜いて、挑戦的にふたりは目を細めた。
「そうだヨ」
「ぼくたちはこんなものじゃない」
「今度は本気のあたしたちとたたかってヨ」
「もちろん。本気になったフウくんとランちゃんのポケモン……すごく、すごく楽しみ」
胸に火が灯る。さっきまで知らない者同士だったのに、わたしと彼らはもうライバル同士だ。
「バトル止めちゃってごめんなさい」
「ううん、いいの」
「これ、あげるヨ。貴方にはちゃんと実力があるんだし」
「持っていって」
そういってランちゃんが手に乗せてくれたのは、ふたつめのトクサネジムのバッジ。マインドバッジだった。