フウくんとランちゃんからもらったマインドバッジ。ホウエン地方のジムバッジならすでに8つ持っている。けれど9つ目のこのバッジの輝きが、わたしの中で褪せることは無かった。
むしろあの頃の、がむしゃらなゆえに煌めいていた自分を思い出すようだった。
「ー! お迎えが来てるわよー!」
朝起きてすぐのことだった。階段の下からお母さんが呼ぶ声がする。ちょうど着替えが終わったところだった。
階段をかけ降りるとそこに立っていたのはツツジだった。しかも、いつもより少しよそ行きの格好をしている。シャツやスカート、タイツといった彼女らしいアイテムは変わっていない。けれどシャツは丸襟、スカートはツイード生地に、靴はレースアップのブーツと、友人の贔屓目をのぞいても、かわいい。
「ツツジじゃない」
「、おはよう」
「おはよー。どうしたの?」
「本日はわたくし、お休みなの。一緒に出かけません?」
「わたしの予定は聞かないの?」
「暇そうにしか見えないもの」
「正解! ちょっと待って、上着だけ着てくる!」
自分に部屋に戻ると嬉しさが追いかけてやってきた。ツツジと、おでかけだ。
ツツジは行き先を決めていたらしいので、わたしも素直についていくと、たどり着いたのはフエンタウンだった。
町に入った瞬間から温泉の成分が匂う。
湯に溶けだした成分の香りは本来ならば臭いと思うはずだけど、湯煙と交わるだけでなんだか身体に良さそうな匂いになるのは不思議だ。
久しぶりに温泉入りたいかもと思った矢先だった。ツツジは「一緒に温泉でも入ってゆっくりしましょう」と言ったのは。
わたしは性別は女で、ツツジも女だ。だけどなんでだろうか、ツツジと温泉という響きに不覚も動揺してしまう。
ツツジという少女はまじめで、なかなかガードも堅い。そんな子が放った「一緒に温泉」という言葉はなかなかに強烈だった。
ツツジが洋服を脱いで、わたしもさっさと脱ぎ始める。彼女の体を見すぎないように自分の手足に目をやると途端に気持ちがしぼむ。
小さな傷の跡は未だに消えないで残っている。
ポケモンバトルの修行のために旅をしていた。その生活の中では仕方が無いとは言え、この傷の多さは自分の不器用さのせいもあるんだと思うと気持ちが落ち込む。
そう、だから、コンテストで自分までもが演技の一部になるのはわたしには耐えられない。
コンテストのことを思いだして、同時に思い出したのはミクリのことだった。ミクリ。パウダールームで……。
ガンッと脱衣所に響いた音それはわたしが棚に盛大に頭突きした音だった。
「何しているんですの……」
「なんでもないなんでもないなんでもない……」
額に変な跡はついたままだけど、バスタオルに身を包み露天風呂へ出る。湯煙があるとは言え外の風で体が少し冷える。
駆け足で温泉に近づいてくると先客に気がついた。
何よりも赤い髪の色で、わたしは目を見開く。
「っアスナ!」